聖獣が仲間になる
朝起きると、既にスゥは起きており、ダンジョン最下層の中を走り回っていた。
久しぶりに食事をして、無事元気を取り戻したようだ。昨日スゥは歩いただけで、動き回るようなことはなかったから元気が有り余っているのだろう。
軽く朝食を取って、出発した。
現在はダンジョンの最下層にいるが、ボスを討伐したばかりなので魔物が出現することは無い。
ここまで来るのには15時間以上の時間がかかったが、帰りはそこまで時間がかかることは無いだろう。もう迷うことは無いだろうし、途中で魔物を見つける回数も減るはずだ。
案の定、あっさりとダンジョンから抜け出し、迷うことなくガリスタの方に案内してくれる。
今日の眠る前、スゥとは色々な話をした。その時に、旅について行きたい、と言われた。
私はスゥと一緒に旅ができたら楽しいだろうと思った。だから、迷うことなくすぐに返事をしようと思ったのだが、すぐにスゥは寝てしまってまだ返事ができていない状態だった。
すぐに返事を返していたと勘違いをしていたが、言うタイミングを逃してしまったことを思い出した。
このまま私が返事をしなければ、途中でお別れになってしまう。私と一緒に旅をしないなら、人間の町に用なんて無いだろうから。
「スゥ、私と一緒に旅をしよう。私の旅はまだ始まったばかりで、見たことのない景色は沢山ある。それらを一緒に見に行こう。」
旅を始めた時は1人で旅する方が気楽でいいと思っていたが、今ではスゥと一緒に旅をしたいと思うようになった。
『ついて行っていいの?』
「ついてきて欲しいの。私がお願いしている側だよ。」
『ありがとう、ずっとついて行くよ。』
スゥは嬉しくて泣いているのだろうか。隣からすすり泣きのような音が聞こえてきた。聖獣も泣くことはあるんだな、などと考えていた。
その場で立ち止まり、スゥが泣き止むまで待った。
しばらく背中をさすっていると、スゥは泣きやんで再び歩き出した。
それから1時間ほど歩いてガリスタが近づいてくると、ひとつ問題があることに気がついた。
(門番はスゥを町に入れてくれるのだろうか。)
『考えてなかったの?』
スゥは私の考えていることを読み取って聞いてきた。
「今思い出したところだけど、スゥは一切心配する必要は無いよ。絶対に許可を貰うから。」
『僕小さくなることもできるから、それで大丈夫かな?』
「そうなの!?大丈夫かは分からないけど、小さい方が入れる可能性は高そうだね。それなら今から小さくなっていた方がいいよ。もう少ししたら他の人とも会うことになるだろうしね。」
『分かったよ。多少魔力を消費しちゃうから、また美味しい料理を沢山食べさせてね。』
スゥが一瞬だけ光に包まれると、そこには小さなスゥがいた。
大きさはまるで子猫のようで、体長は30cm程度しかない。元の大きさが3mだったことを考えると、その10分の1になったという事だ。体の模様は小さくなっても変わらず、虎のようだった。
産まれたての虎と同じくらいの大きさなので、子供の虎と間違えられて国によって保護される可能性はある。それでも成獣ほどの大きさがある時と比べれば、危険度は下がって許可が降りる希望も見えてきたと言えるだろう。
どういう仕組みで小さくなっているのかよく分からないが、こんなに便利な能力なら使わない訳には行かないだろう。
小さくなったスゥは飛び上がって私の頭の上に着地した。
体重は1kg程度で、頭の上にのられてもほとんど重さを感じない。気にもならなかったので、私は何も言わずに歩き出した。
『ユミル!』
1歩進むとスゥに声をかけられた。
「どうしたの?」
私が聞くとスゥは私の左側を指さして、少し申し訳なさそうに言った。
『町があるのはこっちの方だと思うんだけど⋯⋯。』
「⋯⋯⋯」
(スゥは最近人里に降りたことがないし、町の方向が分かるのかな?)
『ダンジョンに行く時に僕に地図を渡したでしょ?それを見たら場所は分かるよ。』
「そういえば、そうだったね。」
私は少し恥ずかしそうに答えた。
『それより、僕と会話をする時は声に出さなくていいよ。そうじゃないと、独り言が多いおかしな人と勘違いされてしまうから。』
スゥはすぐに話を変えてきた。私に気を使って話題を変えたわけでもないだろうけど。
『そうだね。次からは慣れるために言葉に出さないようにするよ。』
そのまましばらく歩き、ガリスタまで戻ってくる事ができた。
出発したのは午前8時だったが、現在の時刻は午後5時前だった。10時間も経たずに戻ることができたから、十分早いほうだろう。
私は門番に冒険者カードを見せた。
門番は冒険者カードに目を通し、私の頭の上にいるスゥに視線を移した。
(やっぱり、そのまま見逃してはくれないか。)
『ごめんね、僕のせいで面倒なことになってしまって。』
『スゥは悪くない。きっと少ししたら通してくれるよ⋯⋯多分だけど。』
『僕、ここでお別れなんて嫌だからね。』
『分かってる。無理を言ってでも許可証を勝ち取ってみせるから。』
『勝ち取るって⋯⋯』
町の中にいる犬や猫などの飼い主には許可証と専用の首輪が渡される。町の中ではその首輪を必ずつけて目を離さないようにする必要がある。許可証を持っている人はペットのすることにも責任を負うことになるのだ。
「頭の上にいるのは虎の子供ですよね?懐いているようですが、子供でも危険な動物なのでこちらで保護致しましょう。人を襲うこともありえますからね。」
「嫌です。私の旅の相棒なんですよ。」
「でも、つい2日前に見た時にはいませんでしたよね?ほら、馬車と一緒に町に入った時、もしかして馬車に隠していたんですか?それなら問題ですよ。」
「⋯⋯⋯」
(面倒なことになってしまった。許可を貰えないことは想定していたけど、変に勘違いされることになるなんて⋯⋯。改めて見ると、2日前始めて町に来た時にいた門番と同じ人じゃないか。なんで私の事覚えているのよ⋯⋯。こっち側から馬車が来ることなんて滅多にないから覚えられていてもあんまり不思議じゃないけどさ。)
「冒険者のようですし、ギルドマスターを呼んできましょう。すぐ近くですから、勝手に町に入ったりしないでください。入ってもすぐにバレますからね。」
門番がギルドに入っていった。
今のところは周りに人がいないし、入ろうと思えばすんなり入ることができるだろうが、その方が後で余計に面倒になることは目に見えているのでその場で待つことにした。
(本当に面倒なことになったな。どう説明すればいいんだろう?)
聖獣スワイグ (スゥ)が仲間になりました。