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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第2章 城塞都市ガリスタ編
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宿での出来事

私は襖を開けて廊下に出た。レイラに部屋まで案内されて、自分の部屋のドアを開けた。部屋は三階の1番奥の部屋だった。正面には時計があり、その左右に窓がつけられている。左にはベット、右には机がひとつと棚が置かれていた。ベットの下にタンスがあり、服などを片付けることができるようになっている。その手前にはレイラの母らしき人が立っており、床を掃除していた。


「お風呂はどうでしたか?」


目が合うとすぐに声をかけられた。


「とても気持ちよかったです。レイラと話していると、いつの間にかのぼせてしまっていましたけど。」


「うちの娘がすみませんね。新しく女の子が来たとき、毎回1度は一緒に入るんですよ。」


レイラ母は申し訳なさそうに謝ってくるが、嫌だった訳では無いのに謝られてしまうのは、こちらが少しだけ申し訳ない気持ちになってしまうからやめて欲しい。


「いえ、いいんですよ。誰かと一緒にお風呂に入ったのは初めてだったけど、思った以上に楽しかったですから。」


本当に初めてだったのだ。親と仲が悪かった訳では無いが、わざわざ一緒に入るようなこともなかった。お父さんに誘われても毎回断わっていたし、産まれた時から1人で入っていたので子供の頃も1人だった。


「そうですか、何かあれば遠慮なく言ってください。では、ゆっくりしていってくださいね。」


レイラ母は掃除を終わらして部屋を出ていった。


もう既に次の日になっており、時刻は午前2時になっていた。もう遅い時間なので私はすぐに眠ることにして、布団に入った。いつもとは違うベットだったが、ぐっすり眠ることができた。



窓の外から暖かい光が差し込み、私は目が覚めた。


私は普段は太陽が出るよりも前に起きるのだが、いつも11時には寝ている所を今日は2時以降まで起きていたから、起きるのが少しだけ遅くなってしまった。


現在の時刻は7時を少し過ぎたくらいで、いつもなら朝に運動して朝食を食べている時間だった。


私は素早く外出用の服に着替えると、階段を降りた。


宿の食堂では、レイラがお客さんに料理を運んでいる姿を見ることができた。父は厨房で料理をしていて、母はお風呂の掃除をしているようだ。


もう起きてきて朝食を食べている人も少なからずいるようだが、まだ起きてきていない人が多いようだった。


「おはようございます。」


私がレイラに向かって挨拶をすると、レイラだけでなく他のお客さんも挨拶を返してきた。たとえ知らない人でも挨拶を返してくれるのは嬉しかった。


私も席について、レイラに料理を注文した。


「昨日までこの宿にあんな嬢ちゃんいたか?」


少し離れた席から声が聞こえてくる。


「いや、俺も見るのは初めてだ。いつから居たんだろうな?」


「だが、町中ならともかく、自分が泊まっている宿の中で見かけたら忘れないと思うぞ。それにしても、なんで子供がたった一人でこんな所にいるんだろう?」


「親から逃げてきたとかじゃねーの?」


「騎士や冒険者の親が亡くなって、1人になってしまったのかもな。この町には、それが理由で孤児院で育てられる子供も珍しくない。」


「それは、子供がこんな所にいる理由にならねーだろ。孤児院にいるなら宿に来る必要ないじゃねーか。」


3人の男性は他の人に聞こえないようにコソコソ話しているようだが、聴力が強化されている私には全て聞こえていて、気になって仕方がない。


私について話している所を聞くのは恥ずかしいし、勝手に子供だと勘違いされていることも放っておくことができなかった。体はちっさいかもしれないけど、一応私も成人しているんだから。


私が近づいて行くと、気づいた男性達が話すのをやめて、顔を動かさずに視線だけでこちらの方を見てきた。その時、その男性は私と目が合ったことに気づき、すぐに視線を逸らした。


その男性の目の前まで行くと、声をかけた。


「私について話しているようだけど、ここにいるのはそんな理由じゃないよ。家族とは仲がいいし、孤児でもないし、そもそも成人してるから。大人だからね!」


私が身分証を見せると、納得してくれたようだ。手前にいる男性が私に頭を下げると、奥にいた2人も同じように頭を下げてきた。


「そうなのか、余計な事言って悪かった。でも、まだ成人したばかりじゃないか。あんまり変わらないと思うぞ。」


まだそんなことを言うのか、と思ったが、頭を下げて謝ってくれたし、伝えたいことが伝えれたし、これ以上言うのも面倒だった。


「そうだけど、冒険者になる為にこの町まで来たから、この宿にいるんだよ。」


冒険者になるために西側からわざわざここまで来たわけではなく、東側から来て1番近い町がここだったというだけだけど。


「最初からここに来たのか?ここがどれだけ危険なのか分かっているのか?」


心配してくれるのは嬉しいけど、毎回こんなに心配されるのも面倒だと思う。強い人なら見ただけで相手の実力をある程度把握できると思うんだけど、魔物と違ってオーラとか放っている訳でもないから仕方が無いか。


「確かに私は成人して2日目ですけど、舐められると困ります。ギルドマスターに実力が認められてCランク冒険者として登録してもらいましたから。」


「Cランクだと!?」


男達は驚いて、3人揃って声を出した。


歴代最初からCランク冒険者として登録された人はいなかった。つまりそれだけ認められているというわけで、実力だけで言えばBランク上位、もしくはAランクに匹敵することもあり得ると瞬時に理解したのだ。


「それなら大丈夫なのか?見た目は強そうには見えないが、見た目で相手の強さを測るのはよくないな。」


男達は困惑してまともに思考することができなかったが、それでもひとつの考えにたどり着いた。


「分かってくれたのならよかった。ちなみに、私が来たのは今日の深夜だから知らなくて当然だよ。」


私は安心してさっきまで座っていた席に戻った。


結局、席に戻ってからも他の所から私について話している声が聞こえてきたが、面倒なので無視した。


運ばれてきた料理を全て食べ終わると、今日はギルドに行くことになっている。昨日、他のダンジョンでも異変が起きていないか調べることに協力すると約束したのだ。


8時までには朝食を済ませて外に出ようとすると、ラスカル達のパーティーが全員揃って上の階から降りてきた。昨日に遅くまで飲んでいたことで、起きるのが遅くなってしまったようだ。


ラスカルは私を見ると話しかけてきた。


「なんだ、ユミル。もう出るのか?」


「一応ギルドマスターからの頼みですし、もう8時になりますから、そんなに早い訳でもないよ。」


ラスカルは時計を見ると納得したように頷いた。


「そうか、もうそんな時間になっていたのか。昨日は寝るのが遅くて疲れていたからぐっすり寝てしまったな。」


「では、行ってきますね。」


「いってらっしゃい。」


ラスカル達だけでなく、宿にいる他のお客さんまで声をかけてきた。昨日の朝は知り合いがいない場所で過ごすことに少し不安を感じることもあったが、快く挨拶を返してくれるのは嬉しかった。

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