冒険者達が私の誕生日を祝う
ギルド職員が総動員されて、オークの素材の鑑定がされる。時刻は既に午後7時を過ぎており、他の冒険者の依頼達成の確認が終わっていたので、普段は受付にいる人たちまで集まってきて、私が無駄に多くしてしまった仕事も文句を言うことなく淡々とこなしていっている。
職員達は素材の傷がある場所など一つ一つを丁寧に確認していた。もし傷があれば紙に印を入れたり、状態を記録したりしないといけなくて大変なのだが、ほとんどの素材は頭部が綺麗に両断されていて、それ以外に傷が見当たらなかったから予想よりも早く終わった。
だからギルドの職員からすれば思っていたよりもずっと楽だったようだ。その代わり、支払うお金は予想よりも多くなったみたいだけど。
ギルドマスターがあんなことを呟いていたから全て買い取ってくれるのか心配していたが、問題なく全て売ることができたようだ。最前線で強い冒険者が多いギルドなだけあってお金は多くあるらしい。
毎日この量だったらさすがに厳しいだろうけど、私だってこんなに沢山売るのは今日くらいだろうから、問題はないはずだ。
私がお金を受け取ると、ちょうどギルドマスターが戻ってきた。私を上位ランクの冒険者として登録することができるか、許可をもらいに行っていたのだ。
ギルドマスターは私の所まで来ると、私に冒険者カードを差し出した。
私は受け取ると、それを見た。
左上には、ユミル、と名前が書かれている。トール・グラントリスの娘だとバレないように、名前だけしか登録していないのだ。基本的に貴族は名前の他に名字 があるが、町に住んでいる大半の人は名前だけである。世界には自分の名前すらない村すらあるのだ。
その横には年齢と生年月日が書かれている。年齢は15歳、誕生日は7月7日でちゃんと記録されていた。私が産まれた日はとても天気が良くて、朝でも窓から部屋に差し込む光が眩しくて暖かかったのをよく覚えている。
名前の下には、依頼ランクごとの達成数と失敗数が書かれている。詳しく見てみると、Aランクの達成数が1になっている。オークの巣は本当はBランクレベルのダンジョンなのだが、異変があったから依頼のランクが上がったのだろう。それ以外は当然0だった。その右に大きくランクが書かれており、Cランク、と書かれていた。
どういう訳か、ランクによってカードの色が変化するらしい。Aランクは黒色、Bランクは白金色、Cランクは金色、Dランクは銀色、Eランクは銅色、Fランクは赤色、Gランクは青色、Hランクは緑色、Iランクは白色になるようだ。初心者は大抵白色のIランクから始めることになるのだ。
私はCランクなので、当然金色だった。Cランクでもカードが輝いていて充分綺麗なものだった。Aランクは黒色になって輝きはなくなってしまうけど、それはそれでカッコよくていいと思った。
「ちゃんとCランク冒険者として登録できたんだね。正直に言うとあまり期待していなかったんだけど⋯⋯」
こんなことは普通ありえないことだからできないと思っていたが、成功したようだ。ここのギルドマスターの権力は思っていたよりも大きいらしい。
「ああ。最初は無理と言われてしまったが、私が根気よく頼んでいると、許可が貰えたんだよ。」
(普通ランクアップはそれぞれ条件があり、それをクリアしなければならない。なのに、それを無視して簡単にランクをCまで上げてしまっていいのだろうか。何かの罠とかではないよね⋯⋯。)
「俺も驚いたが、せっかく許可が出たんだ。有難く受け取っておけばいいだろう。」
「そうだね、ありがとう。」
私はお礼を言って、冒険者カードを袋に入れた。
私が受付の場所まで戻ってくると、そこはとても騒がしかった。多くの冒険者がギルド内でお酒を飲んでおり、ほとんどの人が酒に酔っ払っていた。
ある者は笑い話で騒ぎ立て、ある者は急に大声で歌い出し、ある者は皆の前で踊りだし、他の人もそれを見て面白おかしく笑っている。
その後ろの方でラスカル達を見つけた。
私は騒がしい人達の間を通って、ラスカル達がいるテーブルの空いている席に座った。
魔法袋からお金を取り出し、皆に見せる。既に6等分されているので、1つずつメンバーの前に置いていった。
「おい、これ全部一人分なのか?」
ダルニスは信じられないものでも見たような表情だった。
「そうだよ、全部売ったからね。」
あの量の素材を売ったのだ。これだけの金額になっても不思議は無いだろう。
「いくらあるんだ?」
中には金貨が入れられていた。数はそこまで多い訳では無いが、その全てが金貨なので金額としては相当なものだろう。
「素材の買取料金は合計で金貨150枚分だったよ。」
「そんなに多いのか!?それなら皆で分けても1人25枚じゃないか。」
「そうだけど、そんなに驚くことでも無いと思うけど?」
「そりゃあ驚くに決まっているだろう。こんな大金を一日で稼げてしまったんだから。」
「稼ぐことだけ考えれば、もっと稼ぐこともできると思うけどね。」
でも、確かに言われてみればこの金額は相当稼げていると言っていいだろう。マトラスに聞いた話だが、普通に仕事に就いている人が1年間働いたとしても、金貨を手に入れることは難しいのだから。
この国では大銅貨1枚でパンを一個買えるくらいの価値があると言われている。銅貨は丁度その十分の一の価値で、その更に下に鉄貨、上には銀貨、大銀貨、金貨、白金貨と順に価値が上がっていく。大銅貨と銀貨、大銀貨と金貨の間だけ価値が百倍に跳ね上がるが、それ以外は10倍である。
金貨25枚だと、大銅貨で言うと250万枚分である。つまりパンだけなら250万個買うことができるというわけだ。
価格設定は世界で共通だが、アルメニア王国では鉄貨1枚で1アルムなので、金貨25枚だと2億5000万アルムになる。確か平均の生涯年収がその位だったはずだ。
そう考えれば、一日でこれだけ稼ぐことができるのは異常だと思った。このお金さえあれば一生生活することもできるだろう。
「ユミルはできるかもしれんが、俺達には無理な金額だよ⋯⋯。本当に貰ってもいいんだよな?」
「そんなこと聞く必要は無いよ。最初からそういう約束だったでしょ!」
「そうだったな⋯⋯。おーい!、ここにいる皆よく聞け!」
ラスカルが大声でここにいる冒険者たちに声をかけた。ラスカルの声に多くの冒険者が注目した。
「今日はここにいるユミルの15歳の誕生日で、無事冒険者としての初依頼を達成できた!お金は俺が出すから、全員でお祝いだ!」
こんなことを言い出したのだ。確かに私は、皆でお祝いして欲しい、とは言ったが、それは冒険者皆でではなく、このパーティーの皆のつもりだったのだが、ラスカルは少し勘違いしてしまったようだ。
このことを聞いた冒険者たちは次々に騒ぎ立てた。今でも充分騒がしかったのだが、ラスカルの言葉によって、この場がさらに騒がしくなった。
家ではこんなに多くの人がいることなんて無かったから、初めての経験だった。静かなところが好きな私でも不思議とうるさいと感じることは無く、むしろたまにはこういう事もいいと感じられた。
お金の数え方を大体日本円と同じくらいにしたので、分かりやすいと思います。




