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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第1章 精霊の住処編
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ユミル・グラントリス誕生

主人公が出てきます。

精霊の住処


精霊王ルナと剣聖トールが精霊の住処に来て2年近くの年月が経った。トールは精霊の住処の豊富なマナのお陰で魔王との戦いで受けた深い怪我は完治していた。そして、トールとルナの家では1人の赤ちゃんが産まれていた。精霊は普通、魔力から生まれるため親はなく、生まれたすぐは体が安定しないため魔力の濃い場所でしか存在を保つことができず、体もかなり小さいのだ。しかし、トールの子はルナのお腹で9ヶ月以上の時をかけて成長し、生まれる頃には人間の子供と同等の大きさを有していた。


「やったぞ、ルナ。元気な女の子だ!」


トールは生まれたばかりの女の子を大事に抱き、出産を喜んだ。


「精霊と人間の間で子供が産まれるなんて世界初よ。ところでトール、この子の名前は決まった?」


「ああ!女の子だからユミル、ユミル・グラントリスだ!」


「ユミル、いい名前ね。私も気に入ったわ。」


「そうだろ!はははっ!」


2人はとても幸せそうに会話をしていた。



私の名前はユミル・グラントリス、産まれてから1週間がたった。最近になってやっと自力で家の中を動き回ることができるようになったのだ。


精霊は人間と比べて驚くほど成長が早い。それ故に5年ほどで人間で言う成人した状態になる。しかし、成長はそこで止まり生涯自分が死ぬ時までその体のままらしい。


精霊は老いる事なく、長い時を生きている。最近聞いて驚いたが、お母さんはあの見た目で100歳を超えているようだ。お父さんはまだ21歳だから、相当年の差がある両親ということになる。


人間であったならばありえない事だろう。このまま平和に暮らしてもお父さんが先に老いていき、亡くなるのも先だろう。いずれ別れが来ると分かっていて人と仲良くしたり、結婚したりするのは後で苦しむことになるだけではないのか?⋯⋯今の私は本気でそう思っていた。


私は人間の血も混ざっているからどうなるか分からないが、身体は精霊に近いので普通の人間よりは成長が早いのかもしれない。

ちなみにだが、人間が成人するのは15歳らしい。精霊は人間より長い時を生きることができるので、もしかしたら私も長生きになるのかもしれない。


私は今、家にある本を読むために書架に行くところだ。


私の家はお母さんが精霊王ということもあり、精霊の住処の中では1番広いと言えるだろう。そもそも、精霊の住処には二階建ての家がここしか存在しない。一階にはリビングやキッチンやトイレ、お風呂などがある。玄関の近くにある階段から2階に行くと左右に2つずつ、合わせて4つの部屋がある。右側の手前にお父さんの部屋、その奥にお母さんの部屋、左側には手前に私の部屋があり、その奥は私の目的地の書架である。


外の様子はどうだろうか?私は自分の部屋と書架の間にある窓を開けて外を見た。昨日もお父さんに抱っこされて外に連れ出されたが、少し上から見ると周りの景色がよく見えた。


精霊の住処は辺りに沢山の木々が生い茂っており、その幹が絡まりあっているところに木材を使って家が建てられている。決まった家を持っていない精霊が大半で、ほとんどが外で生活している。木の下に行くと自然か溢れており、精霊だけでなく一部の動物や虫なども一緒に暮らしている。娯楽の少ないこの場所では外で自然の中を駆け回るのが普通のことだ。人間と違って仕事というものはなく、精霊は大人も子供も朝から外で遊んでいた。しかし、我が家には珍しい本が沢山置かれており、暇があれば読ませてもらっていた。

今では自分で読みたい本を選んでは読んでいる。


ドアを開けて書架に入ると、インクで書かれた本の匂いが漂ってくる。左右を見ると本棚には全て合わせると数百冊にもなる沢山の本が綺麗にしまわれている。上にある本は取れないので下にある本を適当に選んで取り出して読むことにした。


表紙には男性のイラストが描かれており、【世界の歴史】と太い字で書かれていた。何故わかるのか、それは精霊が産まれた時から沢山の知識を持っているからだ。精霊には親がいないため生まれた瞬間から世界を生き抜く知識を持っていて、世界共通語を読めるのもそのうちの一つである。精霊は字を見ることはほとんどないが、それでも最初から頭の中に入っている。実に奇妙な話である。


だから本は全て読むことができるわけだが、残念ながら人間の国に関する知識はほとんどない。私の父は人間なので知識として持っておきたいものだ。


アルメニア王国誕生は今からだいたい500年ほど前で、それに比べてデモン帝国は1000年以上続く大国である。デモン帝国は広大な土地を持ち、人口も王国の二倍近くにもなるという。しかし、王国は経済的な技術では少し劣っているものの、未来ある若者の能力を伸ばすことに力を入れており世界最高レベルの学校は王国にある王立士官学校である。世界には大きな国が五つ存在し、まとめて五大国と呼ばれている。人間が住むデモン帝国、アルメニア王国、カルディス共和国や、獣人族などが住むセルテイス、竜族が住むミケトラン竜王国の国を指している。


アルメニア王国は大陸の南東に位置しており、北にはデモン帝国、北西にはカルディス共和国、西にはセルテイス、南には別大陸でミケトラン竜王国がある。東に行けば魔大陸があり、そこは3年前に魔王が生まれた場所である。精霊の住処はアルメニア王国の北東にあり、デモン帝国との国境沿いに存在している。


現在王国を治めているのは、魔王を討伐し英雄となったフェスト・カール・アルメニアである。まだ21歳という若さであるが最高峰である王立士官学校で首席を取るほど優秀な人である。父はまだ46歳だが、息子の方が上手く王国を治めてくれると考えていて任せているという。


(お父さんと同い年で学校まで一緒じゃないか。お父さんからこのフェストという人のことを聞いてみよう。)



家から出て少し歩いたところにお父さんがいた。剣を振っているようだ。剣術のことはあまりよく知らないが凄くいい太刀筋をしていることは誰にでもわかることだろう。見ていて退屈しないので、お父さんが剣の練習が終わるまで見て待つことにした。


お父さんは練習が終わるとすごい速度と笑顔で近づいてきながら私に声をかけてきた。


「ユミル~、パパが恋しくなったのか?」


「そんなんじゃないです。少し聞きたいことがあっただけです。」


そう少し嫌そうな顔をすると、お父さんは悲しそうな顔になった。


(お父さんのことは好きだけど、さすがに汗まみれの状態で抱き締められたくはないかなぁ)


「ユミルが俺に聞きたいこと?全く想像がつかんな!言ってみろ。」


抱きつく前に立ち止まったお父さんを見てため息をついてから話し出す。


「実はお父さんと同期のフェスト・カール・アルメニアのことについてなのですが。」


お父さんはさらに嫌そうな顔をしてこんなことを呟いている。


「まさかこのパパを差し置いて、まだ会ったこともないフェストのことが好きになってしまったのか?確かにアイツは非の打ち所のない完璧な人間で、美形でスタイルも良くて、男子にも女子にも好かれていて好意を寄せられることが多かったが、俺のユミルを奪うことは許さないぞ。親友だとしても許さん。もう妻もいるんだし、何も問題はないんだが⋯⋯心配だ。」


(なぜここでさらに不機嫌そうな顔をするのか。まさか本当にそう思っているのかな?)


もしそうだとしてもそこまで不機嫌になる理由が私には分からなかった。


「話が飛躍し過ぎです。お父さんの出身地であるアルメニア王国を治めている人がどんな人か気になったんです。親友と呼ぶくらいですからよく知っている人物なんでしょう?」


すると今度は少し機嫌がよくなった。


「俺の出身地のことが気になったのか。つまり、ユミルはパパのことが好きだということだな。」


(ここは素直にそうだと言っておこう。ここで否定してしまうとお父さんはさらに落ち込んで、しばらく口を聞いてくれなくなるかもしれない。英雄と呼ばれるほどの人物なのに、私の言う事には弱いからね。)


「まあ、そういうことですかね?」


そう言うとお父さんの機嫌がさらによくなった。


「うおぉぉぉぉ、ユ~ミ~ル~!」


そして私に抱きついて頬擦りをしてきた。


「あの、フェストさんについて早く聞きたいのですけど。」


(結局抱きしめてるじゃない!)


私は心の中で叫んでしまった。危うく声に出してしまうところだったが、我慢することができた。


お父さんは色々なことを話してくれた。お父さんとフェストが幼い頃から親友であったこと、剣術以外では勝てなかったこと、母とほかの3人も合わせて6人でアルメニア王国に攻めてきた魔王軍のリーダーである魔王を討伐したこと、その時に怪我をして意識を失った状態のまま今の家に来たこと、それから1度も会っていないということも⋯⋯。


「そうですか。やはり、お父さんは凄い人だったんですね。魔王を倒してしまうなんて。英雄と呼ばれていることは知っていたけど、まさか世界を救うほどの偉業を成し遂げていたとは思ってなかった。」


私はとても驚いていた。確かに剣の腕は他の人と比べるまでもなく超一流であろう。しかし、私が産まれてから今までのお父さんを見ているととても信じられない話だ。私から見たお父さんは、家族思いで馬鹿な普通の男性である。まあ、他の人間がどういうものなのか分からないからこれが普通なのかもしれないけど、これが普通ならそれはそれで問題である。


「そうだろう、そうだろう!もっと褒めてくれてもいいんだぜ。」


お父さんは腕を組み、胸を張って自慢げにそう言った。


「お父さんは凄い人です。尊敬します。ところで、なぜ他の仲間たちに会いに行こうと思わないのですか?仲が悪いわけじゃないんでしょう?」


私は話を聞いていて不思議に思ったことを聞いてみた。親友だっているし、他の人だって1年間も自分の命を預けて共に危険な旅を乗り越えてきた仲間のだから会いたいと思うのが普通の事だろうと思ったのだ。


「そんなわけないだろう。会いに行きたいが行けないんだ。今お前が精霊の住処から出ることはできないからな。精霊は産まれたばかりの時は身体が安定していなくてな。身体ができ上がる5歳くらいまではマナの多いこの場所でしか存在することができないんだ。ユミルはハーフだからそれよりも時間がかかるかもしれないしな。ユミル1人だけをこの家に残していくこともできないだろう?」


つまり、私のことを心配してくれているのだ。それは嬉しいことではあるのだが、私のせいでそんなに長い間親友たちと再会できないのはダメだろう。


「私は少しの間なら1人だけでも大丈夫ですよ。お母さんと2人で会いに行ってあげてください。私だってお父さんの立場、親友の立場になって考えると早く会いたいと思うのは当然の事だと思うから。」


私が考えていることが伝わったのだろう。お父さんは少し考えてから言った。


「わかった、少し考えておこう。」


お母さんにも相談しないといけないしすぐに答えの出ることではないので、この話は1度終わらせた方がいいと思い、話題を変えることにした。


「それよりも剣術を教えて欲しいです。お父さんみたいな凄い人から教わりたいんです。」


これは本当に思っていたことである。お父さんの剣は美しかった。剣術を全く知らない私でも惹き付けられ、視線を逸らすことができなかった。動きが速いせいで剣を捉えることはできないのに見るものを引きつける凄さが備わっていた。私はあのような剣士に、否、あれ以上の剣士になりたいと強く望んだのだ。


「それは無理だな。」


お父さんの言葉は私の想像と違っていた。娘である私に甘いお父さんのことだから簡単に教えてくれるものだと考えていたからだ。


「どうしてですか?」


(きっと何か理由があるのだろう。)


「今の身体では無理だという事だ。やっと歩くことができるようになったばかりのそんな小さな身体では剣を振ることなどできないだろう。木の棒でやることもできるが、実戦のことも考えると最初から本物の剣に慣れていた方がいい。しかも、体幹のないその状態で振り回して変な癖がついても嫌だからな。」


なるほど、確かにその通りだ。剣はけっこう重いのだろう。同じ重さの物を持てたとしても、剣は別だ。先端を持って振り回すことなどできない。


「そうですね。」


(少し残念だが仕方がない。剣を振ることができるようになるまで待つことにしよう。)


「だが、代わりにお前には身体能力を強化する魔法を教えてやろう。これができるようになれば剣を振ることもできるようになるだろう。そうなったら剣術を教えてやるからな。」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

自分のペースで書き進めて行きますが、これからも読んでくれると嬉しいです。

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