初依頼を達成する
ユミルはキングオークを討伐し、パーティーメンバーの所に向かった。
「一緒に部屋の端にある魔晶石の採掘をしよう!私一人だと時間がかかってしまうから。」
もう5年も魔晶石の採掘の練習をしてきたが、今でも採掘は時間がかかって面倒なものだった。
身体能力が上がっても、それほど採掘が早くなる訳では無いからだ。綺麗に掘り出さないといけないから、高速で掘りだしたりせずに、ゆっくり丁寧に掘り出すことになるのだ。だから、時間がかかってしまうのだ。
「そうだな。それくらいはしないと申し訳ないよ。」
皆は立ち上がって採掘を始めた。
「皆さんは悪くないよ。むしろランクに合わない依頼を受けさせてしまった私が悪いんだよ。私がラスカルのパーティーを推薦したんだから。取れた素材は皆で分けよう。そうじゃないと依頼達成料だけではこの依頼には見合わないでしょう。」
この依頼はギルドマスターからの直接依頼だから、普通の依頼よりも報酬は多いのだが、それでもこんなに命の危険がある依頼があの報酬では、いくらなんでも足りないだろう。
冒険者が危険な仕事で、命を落とす可能性だってあることは皆が承知の上で冒険者になっているが、それでも死にたいと思っているような人は一人もいない。
死亡者を減らすために、ギルドが出した依頼にはランクがつけられており、冒険者ランクがそのランクを上回っていないと受けることができないようにできているのだ。
逆に言うと、そのランクがあると十分クリア可能な難易度の依頼であり、苦戦してしまうことはほとんどない。
だから、実力に見合わない依頼を受けさせてしまった私にも責任があるから、自分が討伐したオークの素材やここにある魔晶石を全て独り占めにしてしまうのは嫌だった。
「それは悪いよ。僕達はほとんど何もしていないんだから。」
ラスカル達はそう言って受け取ってくれそうになかった。しかし、それを予想していた私はすぐに反論した。
「そんなことないよ。先輩冒険者として色々なことを教えてくれたし、一緒に行かないと森にすらたどり着けなかったかもしれないしね。それに、最初に依頼達成料と素材買取料は6人で均等に分けるって決めたよね?」
昼食が終わって門を出た後、皆で会話している時にラスカルが言っていたことだ。
「確かに道中でそう言った覚えがあるな。でも、それはユミルが遠慮しないようにするためだったんだよ。」
(ラスカルは私が初めての依頼であまり活躍できなかったとしても、私がちゃんと報酬を受け取れるように配慮してくれていたんだろう。まさかそれが自分に返ってくるとは思いもしなかっただろうけど⋯⋯。)
「私だって同じ気持ちなんだよ。遠慮しないで素直に受け取って欲しいと思ってるんだから。」
ラスカルは少し悪いと思いながらも、ユミルの気持ちを考えて頷いた。
「それなら仕方が無いな。俺達だって、ユミルを困らせたくないからな。」
それでも少し申し訳なさそうにそう言った。
「不満があるなら、今日は私の誕生日だから皆でお祝いしてほしい。もちろん代金はラスカル達持ちで。それでいいでしょ。」
ラスカルの気持ちを感じ取った私はそう言った。ちょうど私の誕生日だし、いい提案だろう。
「それくらいのことならいくらでもするぞ。今日は冒険者全員でユミルの誕生日をお祝いだ。」
(えっ、冒険者全員ってどれだけいるんだろう?)
何か想像していたよりも大事になりそうだった。
私が皆が採掘してくれた魔晶石を袋に入れていると、ニーナが聞いてきた。
「その袋、あとどれだけ入るの?ここに来るまでにもオークを大量に入れていたよね?」
他の魔法袋がどれだけ入るのかは分からないが、これは両親から貰った魔法具で、今まで入らなくなったことは無かった。
現代でも魔法具の研究はされていて量産もできるようになった物もあるが、ほとんどの物はまだ作ることはできなかった。
この魔法具もそのうちの一つだ。まだ世界で十数個しか発見が確認されておらず、持っている人は数人しかいない。残りはそれぞれの国で厳重に保管されていた。その存在すら、ごく一部の人しか知らないのだ。
「無限に入るんじゃない?よく分からないけど、この袋が満タンになったことはないよ。皆疲れたでしょう。ここで少し休憩していこう。」
全て袋の中に入れると、私は座り込んだ。
ダンジョンの最下層はボスだけで、上から降りてくる魔物はいない。どちらにしても、上の魔物もほとんど討伐してしまったのだが。
結局、ボスさえ討伐すれば、それから1ヶ月程は安全地帯になるのだ。
「そうなんだ。そんなのどこにあったの?」
さっきの話の続きだ。まあ当然、疑問に思うだろう。逆の立場だとしても疑問には思う。それでも、私なら聞くことはできないから、大丈夫だろうと思ってあまり隠していなかった。
ニーナは純粋な興味で聞いているのだが、本当のことを言えない私はどう答えればいいのか迷ってしまう。
本当のことを言ってしまえば、英雄の娘だと騒がれてしまい、旅どころではなくなってしまう。それだけはどうしても避けたかったのだ。
「昔冒険ごっこしていたら偶然見つけたんだよ。とても便利なものだったから、それからずっと使っているんだ。」
咄嗟にこんなことを口走ってしまったが、こんな嘘では誰も信じてくれないだろう。
「へー、そうなんだ。やっぱりユミルは凄いなぁ。」
そう言って、ニーナは納得してしまった。偶然見つけたと言ったから私が凄いこととはほとんど関係はなく、この魔法具自体が凄いだけなんだけど⋯⋯あえてそこは指摘しないでおく。もう納得したのだから、無駄に思い返させることはないだろう。
少しだけダンジョンの最下層でのんびりと休憩してから、城塞都市ガリスタまで帰ってきた。外に出ていた時間は6時間ほどだったが、長いこと外にいたような気がした。
(もっと長い時間、それこそ一年近くも精霊の住処の外にいる時期だってあったのに。)
門を通過すると、すぐ左側にあるギルドへと入っていった。ギルドの中には、今日の依頼が終わって受け付けに並んでいる人が大勢いた。
(ここに並んで待たないといけないのか。)
と思ったが、そうじゃないみたいだ。
ラスカルは冒険者の列を通り越して前まで来た。受付の人がラスカルを見ると、すぐに後ろにいた職員が私たちを別の場所へと案内した。その後、職員はギルドマスターを呼びに行った。
私達は部屋にあるソファーに座った。ソファーは四角形の机を中心に4つ置かれており、私の左にはラスカルが座り、左前にあるソファーにはユリウスとダルニスが、右前にあるソファーにはマリアとニーナが座った。
「どうして他の冒険者を抜かしていけたんですか?」
「それは調査依頼だからだよ。何か異変があるかもしれないのに、長い間待たせる訳にはいかないだろ。たとえ何も異変がなかったとしても、すぐに知らせた方がいいだろうし。まあ、ギルドマスターからの指名依頼の時も優先されるしな。調査依頼も指名依頼のうちの一つだから、最初からそう言えばよかったかもな。」
ラスカルの説明が終わると、ちょうどギルドマスターがやってきて、私の正面の空いているソファーに座った。
「調査の方はどうだったんだ?」
ギルドマスターは当然すぐに本題に入った。
私はどう言えば分かりやすく伝わるのか考えたが、説明はラスカルに任せることにした。