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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第2章 城塞都市ガリスタ編
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自己紹介をする

ラスカルさんに案内されてお店へ行った。


門の前まで戻って左へ行き、少し歩いてから右に曲がる。そこから少し歩くと、ここまでいい匂いがしてきた。さらに少し歩いてからまた右に曲がると、いい匂いの発生地であるお店が見えた。扉の上には大きな看板がつけられており、そこに大きな字で〈癒しの祠〉と書かれている。これがお店の名前なのだろう。


もう昼も近づいて来ており、これから人が増える時間帯だ。


店に入ると中には人が沢山いた。


(この時間帯にこんな人数の客がいるならもう少ししたらどれだけ増えるのだろうか。それとも人間の国ではこの時間の昼食は普通なのか?)


そんなことを考えていると、お腹がなってしまった。お店を漂うこの匂いに、朝食を食べていない私の体が反応してしまったのだ。


ラスカルさんの方を見ると爽やかな笑顔で私を見ていた。他のパーティーメンバーも私の方を見ている。私は恥ずかしくてラスカルさんから目を逸らし、下を向いて顔を赤らめた。


「仕方ないじゃないですか。まだこの街に来たばっかりで、まだ朝食すら食べていないんですよ。」


目を合わせないままもごもごと話す。


「大丈夫、皆だってお腹がすいているから一緒だよ。」


ラスカルさんに励まされていると、正面から声がかかる。


「いらっしゃいませ。5名様ですよね?」


店員さんはそれが普通のことだとばかりに言う。


「いや、今回は6名なんだ。ちょっと事情があって一時的にこの子とパーティーを組むことになったんだよ。」


ラスカルさんは下がって後ろに隠れてしまっていた私を前にして見えるようにした。


「お知り合いなんですか?」


私はそう聞いた。会話からしてラスカルさんのパーティーが5人だということを知っているような口ぶりだったからだ。


「ああ、俺達はこの店の常連なんだ。」


私が予想した通りの答えが返ってきた。


「この子は誰なんですか?」


店員さんが聞いてくるので、私は挨拶をした。


「はじめまして、ユミルと申します。短い間ですがよろしくお願いします。」


少ししゃがんで私に笑顔を向けてくる。子供扱いをされているのか、身長もあまり変わらないのにわざわざ少ししゃがんだのだ。


「ユミルちゃんというの?よろしくね。でも、短い間ってことはすぐにここを出るの?」


「私は各地を旅するために冒険者になりましたので、いずれはこの地を出て行きますよ。いつ出ていくかはまだ決めていないんですけど。でも、一生のお別れになる訳では無いです。またここにも戻ってきますから。」


私が説明すると、納得したようだ。


「やっぱりそうなんだ。まあ、冒険者は自由な職業で旅人も多いからね。私はアリサって言うのよ。」


私はもう一度会釈をする。


「そろそろ案内してくれないか。客が増えてくる時間帯だぞ。できれば奥の方の席がいい。」


後ろを見ると少しずつ客が増えてきていて、短い列ができている。


「かしこまりました。では、奥の席へ案内いたします。」


アリサさんは奥の左端の空いている6人席へ案内してくれた。


「こちらの席でお願いします。注文が決まり次第お声かけください。」


「ありがとうございます。」


私はお礼を言って席へ座る。他の人も席をつき、奥に女性が、その手前に男性が並んで座った。


席の左側に置かれているメニューを見る。事前にマトラスさんに聞いていた通り、たくさんの料理の説明と絵が書かれていた。この中から好きな料理を選べるらしい。冊子になっているようで、パラパラとめくっていくと、ハンバーグが目に付いた。お母さんが作ってくれたハンバーグを食べた時からずっと一番好きな料理なのだ。


(お父さんは、お母さんが作ってくれたハンバーグが1番美味しいと言っていたが、本当にそうなのか試してみたいな。昨日の晩にも食べたが、それでも食べてみよう。)


お昼にハンバーグを食べるのは少しおかしな感じがしたが、自分が食べたい料理を注文した方がいいだろうと思った。注文する料理が決まって他の人にメニューを渡そうとしたが、全員決まっているようだった。


店員さんを呼んで料理を注文する。私以外は全員同じものを注文するようだ。他の人が注文したのは、ステーキだった。


(常連パーティーが揃って注文するぐらいだから、そんなに美味しい料理なのだろうか。)


何の肉を使っているのか気になったが、他に気になっていたことを先に聞いてみた。


「どうして私にオススメしなかったのですか?」


「食べてみたいのならまたこの店に行けばいい。それなら、この店がさらに繁盛することになるだろうしな。」


「それより、自己紹介でもしないか。お互いのこと全然知らないだろ?」


ギルドで最初に話しかけてきた男性が提案した。


(聞きたいことが他にもあったが、後からでも遅くはないだろう。)


私は頷いて承諾した。


「そうね。じゃあ、私からするね。」


そう言って、私の左にいる女性が自己紹介を始めた。


「私はね、マリアっていうの。冒険者ランクはBで、両手に剣を持って戦う前衛を務めているのよ。」


そこから左回りで順番に自己紹介をしていく。私は最後に自己紹介をすることになりそうだ。


「私はニーナ。同じくBランクで、皆をサポートする支援型よ。」


「俺はユリウスだ。魔法を使って皆を助ける後衛の役割を担っている。このパーティーは皆がBランクだから、当然僕もそうだよ。」


「俺はダルニスだ。前衛で敵の攻撃を引き受ける役割をしている。最初に会った時、怖がらせてしまって悪かった。」


ダルニスさんは頭を下げて謝ってきた。


「驚きはしましたが、怖がってはいませんよ。いい人そうで安心しました。」


次はラスカルさんが話し出す。


「知っていると思うけど、俺がこのパーティーのリーダーであるラスカルだ。指示を出したり、前衛として戦ったりしている。」


マリアさんが自慢げに話し出す。


「リーダーは私たちと同じBランクではあるけど、もう少しでAランクにもなれるって言われているのよ。」


他の人が話し終わると、とうとう私の番だ。私に注目が集まり、緊張で話し始めるのに苦労した。今日初めて会った全く関わりのない他人と話すのは予想以上に難しいことだった。


「私はユミルです。成人したばかりで、初めての仕事ですが頑張ります。」


皆が驚いた。その中でもラスカルさんは机に手を置いて勢いよく立ち上がった。


「依頼を受けるの初めてなのか!?最初からこんな依頼を受けさせるなんてどういうことなんだ?」


私は当然の事のように答えた。


「ギルドマスターにはこの仕事をこなせるほどの実力があると認めてもらいましたよ。」


ラスカルさんはその答えに不服そうな顔をする。


「それはさっき聞いたんだけどな。おかしいと思うが、まあいいだろう。それで、ユミルは何が得意なんだ?」


私は少しだけ考えてから答えた。


「剣も魔法も使えるんですけど、前衛の方がいいですね。」


「そうか、ならユミルには前衛に入ってもらおう。」


ラスカルさんがそう言うと、他のメンバーも頷いた。


「分かりました。」


「ずっと思っていたんだが、話し方は変えた方がいいと思うぞ。敬語なんて使っていると冒険者の中で舐められることになるからな。それに、相手にもリーダーが誰かバレやすくもなる。たとえランクが上の冒険者や、貴族が相手であっても敬語は使わないものだぞ。」


ラスカルさんに忠告された。


先輩冒険者の中でもベテランであるラスカルさんのアドバイスは聞いていた方がいいだろう。


「分かりました。じゃなくて、分かった。」


ラスカルさんはウンウンと頷いて言った。


「それでいいんだ。」


自己紹介が終わると、ちょうど料理が運ばれてきた。私の前にはハンバーグ、他の人の前にはステーキが置かれた。


「このステーキはね、スタンビー・ボアの肉を使っているんだよ。」


ラスカルはそう言いながら細かく切り分けたステーキを口へ運ぶ。ものすごく美味しそうに食べるので私も食べたくなってしまう。ラスカルが言った通りまたこのお店に来ることになりそうだ。


私も料理を食べ始める。お母さんの作ったハンバーグにも劣らない素晴らしい料理だった。ハンバーグだけでなく、横に添えられているポテトや野菜もしっかりと味付けがされていてご飯がすすむ。ご飯のお代わりが無料のようだったので注文した。


結果的に2杯もご飯をお代わりしてしまい、他のメンバーに心配されるが、問題ないと伝えた。料理が美味しかったのと、お腹がすいていたのが合わさっていつもよりも多く食べてしまったが、普段はこんなに食べる訳では無い。


(昨日の夜だけは別だけど。)


お代わりをした私が最後に食べ終わり、全員揃って店を出た。


「食事もしたし、そろそろ行くか。早めに行っておいた方がいいだろう。」


パーティーは揃って東の門へと歩き出した。

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