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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第1章 精霊の住処編
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ユミルの旅立ち

一章最後は少し短めになってしまいました。

それからさらに月日は流れ、15歳の誕生日の前日になった。


この間の時期は精霊の住処にいる時間より、ダンジョンで魔物と戦っている時間の方が長かったくらいだ。様々なダンジョンに行った。森の中だけじゃなく、山の中、川の中、海の中、孤島でもダンジョンに挑んだ。魔族とは戦うことがなかったので簡単に倒せてしまえるような魔物ばかりだったが、実戦ではいい経験を得られたと思う。


ダンジョン以外にもお父さんと実戦を想定して訓練をした。剣だけでお父さんに勝てるようになったのは、つい最近のことだった。剣術以外も合わせればもっと簡単に勝つこともできるが、お父さんには剣だけで勝てるようになりたいとずっと前から思っていた。


魔法も上達して、お母さんを超える精霊魔法使いとなった。


ほとんどずっと外に出ていたのは事実だが、王国とは真逆の方向なので王国については分からないことが多い。


もうすぐ出発だと思うとワクワクが止まらない。


ちなみに出発は今日の午後8時くらいになる予定だ。朝に来たマトラスさんが日帰りで王国まで連れていってくれるそうだ。つまり、今日がここで過ごす最後の日になるという訳だ。


現在の時刻は午前8時なので、ちょうど半日ほどで出発することになる。


午前中はお父さんと剣を打ち合った。勝負していく毎にお父さんに勝つ割合が上がっていく。初めは五分五分だったが、お昼前には負けることが無くなっていた。しかし、お父さんが弱くなった訳では無く、私がすごいスピードで成長しているのだ。少しの間だけで、自分でも成長を感じられるほどだった。


12時の少し前になると、剣の練習を終えて昼食を作り始めた。ご飯を炊いて、それ以外にも簡単に作れる料理を何種類か作った。ご飯を魔法具を使って炊いている間に、おかずを作って時間を無駄にしない。


1時間も経たずして料理は出来上がり、机に並べていく。今日はお父さんとお母さんの他にマトラスさんも来ているので、作った料理は4人分だ。


準備ができて私が席に着くと、皆で食べ始めた。皆は私が作った料理に満足してくれたようだ。


昼食を食べると、次は精霊魔法の練習をする。お母さんとも魔法を撃ち合ったが、私の方が圧倒的に強く、速かった。


普通の精霊は人間よりも気ままに生活していて、魔法の練習なんて全くと言っていいほどしない。精霊王であるお母さんですら十数年前までは魔法の練習なんてしようとしていない。


練習なんかせずとも、時間が経てば5歳ほどで自然とできるようになり、困ることがなかったからだ。だが、私はそれよりも前の子供の頃から練習をしている。


魔法は才能によって左右される部分が大きいが、その才能にしてもお母さんを大きく上まっている。実戦経験も、練習期間も負けているが、成長が早い小さい時期からの積み重ねがあるから負けることは無い。


4時間ほど魔法を撃ち合っていると、夕食を作るからと言ってお母さんが家に帰って行った。


5時過ぎになった時には、お父さんもお母さんも家にいて忙しかった。マトラスさんが外にいて、私を家に入れようとしなかった。


(明日が誕生日だし、少し早めの誕生日パーティーの準備でもしているのだろう。)


私は空気を読んで、家に入らずに外で待っていた。その間にマトラスさんに色々なことを教えてもらった。主に外の世界の常識だ。ずっとここで暮らしていると、王国のルールは少し難しいように感じられた。ほとんどのものは精霊の住処でも常識のことなのだが、改めて言葉にされると分かりにくかった。


あっという間に午後6時になり、少し早めに夕食を食べ始めた。普段は午後7時くらいに食べ始めて30分ほどで食べ終わるのだが、今日だけは食べるのにもっと時間がかかってしまいそうだ。7時までには食べ終わるとは思うけど。


今日出発するので、旅立ちのお祝い兼誕生日パーティーとなっていていつもと比べるとかなり豪華な料理となっている。私はお母さんが作ってくれた料理を食べるのは最後だと思って味わって食べた。


食事が終わるとそろそろお別れが近づいてくる。結界までは歩いても30分ほどで着いてしまうだろう。それまでにお別れを済ましておくことにする。私は歩きながら、お父さんとお母さんに話しかけた。


「お父さん、お母さん、ここまで育ててくれてありがとうございます。お二人に教わったことを忘れずにしっかりと生きていきます。これから毎日あったことを日記にしておきます。また会うことがあれば読んでください。」


お父さんが言葉を返してきてくれた。


「ああ、無理はするなよ。ユミルは大抵の事は一人でできるようになってしまったが、当然できないことだってあるんだ。無理そうなら逃げることだってしてもいいんだ。無理をして死んでしまうのが1番悲しいからな。」


お父さんが話し終わると、次はお母さんの番だ。


「あなたが産まれてから15年、あっという間に過ぎていったわね。昔は人生が退屈で、どうして精霊はこんなに長生きなんだろう?と考えたことがあったけど、今では毎日の生活がとても楽しくて、長生きできる精霊に生まれていてよかったと思えるようになったの。ユミルは私の血を引いているから人間よりも長い人生になると思うけど退屈だなんて思わないでね。せっかくの長い人生なんだから思いっきり楽しんでね。」


2人からお別れの言葉を貰った。私はその言葉をしっかりと心に焼き付けた。


「ありがとうございます。」


他にも言いたいことが色々あったのだが、涙が溢れてきてこの一言が精一杯だった。


「ユミル。」


お父さんに名前を呼ばれる。


お父さんは一枚の写真を私に渡した。これは私の10歳の誕生日の時に撮った写真だった。その頃にはもう成長も止まっていて、私の姿は今と変わらない。変わったのはお父さんだけで、お母さんも、後ろにある家も今と同じだ。


「コレを持っていけ。独り立ちしたとしても、俺たちのことは絶対に忘れないでくれよ。俺が死ぬまでに何回かはここに帰ってこい。ずっと待っているからな。」


お父さんは精霊である私やお母さんとは寿命が全然違う。精霊は平均で人間の5倍は生きると言われている。アルメニア王国の国民の平均寿命は60歳くらいだと言われているから、60の5倍、つまり精霊は300歳以上生きるのだ。しかもそれは下級精霊の話であって、上級精霊である私はそれよりも長い歳月を生きることになるだろう。


お父さんは体を鍛えていて、魔力の豊富な精霊の住処に長時間いるから、普通の人よりは余裕で長生きするだろうが、それでも100年は持つかどうかは分からない。


精霊と人間では時間の感覚が違うので、精霊にとってはあっという間に過ぎてしまう時間だったとしても、人間は長く感じることが多くある。私はお父さんから写真を受け取り、なるべく早く1度家に帰ろうと心に誓った。


お父さんも私と同じで泣いていた。お母さんも同様だ。


最後に抱きしめてもらった。


お父さんもお母さんも力強く私を抱き締めた。これ以上していると離れられなくなってしまいそうなので、私は離れた。


「さようなら。」


今度も言えたのは一言だけだった。しかし、それは全ての思いを乗せた一言だった。私は振り返ることなく、マトラスさんの馬車に乗った。


マトラスさんは無言で2人にお辞儀をして馬車に乗り込んだ。


パシン、とムチが打たれると馬が走り出す。


ここから私の旅は始まるのだ。

これで一章が終わりになります。

どんどん時間が過ぎていきましたが、この間の時間の一部はこれからの話の途中にも出てくる予定です。

来年からは2章に入ります。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

自分のペースで書き進めて行きますが、これからも読んでくれると嬉しいです。

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