魔王を破りし英雄たち
文章書くのは下手くそですが読んでくれたら嬉しいです。
前章はこの物語の主人公が産まれる前の物語です。
3年前
魔王が率いる魔王軍はアルメニア王国に攻めてきた。
これに対してアルメニア王国はデモン帝国と協力して魔王軍と戦争をした。しかし、魔王軍はとても強く、少しずつ劣勢になっていく。それでも王国で生活している人々を守る為に戦っていた。
そんな時、ひとつの希望が生まれた。神からの加護を受けた勇者が誕生したのだ。アルメニア王国第一王子フェスト・カール・アルメニアである。
フェストは18歳でその年に王立士官学校を卒業したばかりだった。美しい金色の髪は綺麗に整えられており、蒼の瞳はまるで太陽に照らされていっそう青く輝いている海をそこに閉じ込めたような色で見るものを引きつける。細身だが、身長は180センチを超えており、脚も長く抜群のスタイルをしていて、この世界の中では大きいと言えるだろう。さらに、剣術、魔法、座学など様々なことを苦もなくこなし、学校でも首席で卒業していて、先生からの信頼もかなり厚い。将来この人が王になるならアルメニア王国は安泰だろう、と誰もが思う程だった。最初は王子を気に食わないとちょっかいをかけてきた相手も王子の風格、人柄、普段の振る舞いなどを見ていく中で尊敬するようになっていった。いつも冷静で大人しいが、親友のトールが暴れだしそうになると止める係になっていた。先生を含めフェスト以外にトールを止められる人がいなかったのだ。12歳から行政の一部が任されており、学校に通いながら国王の仕事の1部をこなしていた。人望も厚く、貴族や民衆から絶大な人気をほこっており、デモン帝国でもフェストは高い評価を受けていた。
魔王を討伐するために勇者以外にも剣聖トール・グラントリス、賢者メニア・ハーメル、聖女ミア・ヒストリア、さらに精霊王ルナ、竜王ガイーダの五人が集められた。
剣聖トール・グラントリスは第一王子であるフェストとは同い年で一緒に学校に通っていた親友で、幼い頃から一緒にいる仲であった。グラントリス家は王国の北側に領地を持っており、はるか昔デモン帝国と戦争状態にあった頃から爵位を持っているアルメニア王国最古の貴族である。剣術を得意とする家でその中でも遥かに高い才能を持っており、剣術だけで言えば幼い頃から大人でも圧倒するほどの腕前で今では剣聖と呼ばれており、他国にまでその名が広がるほどの有名人である。王国では珍しい黒髪で目も同様に黒色だ。身長はフェストより少し低く170センチ後半だが、男性国民の平均身長よりは少し高い。体格がよく傍から見ても鍛え上げられた肉体をしているのがわかる。学校では度々問題を起こしていたが、ほとんどがいじめられている人を助けようとした事で、やりすぎでフェストに止められている。学校では身分は関係なく仲良くしようというのが学校の方針ではあるが、貴族、平民が同じ下で学ぶ以上多少の問題行動は起こってしまうのだ。それでトールは何度も問題を起こすので、先生を含め多くの人が苦労していたが、平民からは信頼されていて関わりも多くあった。今では剣の腕で父を抜かし、王国一の剣士となっている。
賢者メニア・ハーメルは21歳のお姉さんで帝国出身の貴族だ。燃えるように赤い髪は腰ほどまで綺麗に伸び、根元で一つにまとめられている。目も燃えるような赤で逆鱗に触れると実際に目から炎が飛び出すとまで言われているのだ。身長は女性の中では高く、胸のあたりは後ろからでも隠しきれないほど大きく膨らんでいる。色々なことを研究するのが好きで、たくさんの新しいものを開発して若くして賢者と言われるようになり、領地を与えられハーメル家を名乗るようになった。しかし、研究に夢中で領地の経営は信頼できる姉に任しっきりで、領民と関わることもほとんど無かった。魔法の腕は相当なものであり、特に魔法具を使用した特大魔法の威力は世界一で地形を変えられるだけの爆発を生み出すのだ。その上、近接戦闘もこなせる珍しい魔法使いで、魔法を使わずとも盗賊の集団を軽く殲滅させるだけの能力を持っている。魔王討伐隊への参加はあまり乗り気では無かったが、大切な人を守るために参加することになった。
聖女ミア・ヒストリアはフェストたちの一つ下の17歳である。やや長めの銀髪は纏められていないが、乱れることなく常に美しく整っている。瞳も銀色だが、他の人とは違い、目が合うと誰もが吸い込まれそうになるほどの美しさであった。身長は150センチ程度で小さいが、志は大きく多くの人の命を助けるために日々努力している。教会に所属しており仲間の回復や強化、アンデットや呪いの浄化、魔族や魔物の弱体化などができる支援型である。直接戦いに参加はできないが、普段からたくさんの仕事をこなしていた事で体力は人並み以上にある。能力は他の人と比べて抜き出ており、教会のトップである教皇でさえ超えるかなりの実力者で美しい顔立ちと優しい人柄から民衆の間で聖女と呼ばれるようになり、その名が広がった。ヒストリア家でもみない天才児で才能を開花させたのは僅か3歳の時だった。
精霊王ルナは全ての精霊を統べる王である。スラッとした青色の長い髪にはガラスのような物で作られた飾りが付けられており、普段から外すことはない。青色の髪と眼は精霊が使用する魔法属性を象徴しており、見た目通り水属性の魔法が得意だが、他の精霊とは違い精霊王であるルナは基本の四属性全てを扱うことができる。身長は160センチ少し上と言ったところでメニアほどではないが胸は膨らみを持っていて、揺れるには十分な大きさだ。人間が使う魔法とは違い精霊魔法と言うように区別されている魔法を使うことができて、その中でも最も優れた能力を持っている。精霊は王国ではなく別の所に暮らしていて人間が住んでいる地域には滅多に姿を現すことはないが、魔王軍に自分たちの住処を襲われたことをきっかけに協力して魔王を倒しに行くことになった。争いが嫌いな者が多く戦いに慣れていないが、強力な魔法を持ち、魔族を複数人討伐できるだけの力を持っている個体も存在する。
竜王ガイーダは最高位の竜なので人間の姿になることができるが、その姿は2メートル越えというかなりの大柄で、白く長い髪と誰もが驚くかなり薄めの灰色の瞳は多くの人を引きつける。街を歩くと頭一つ飛び抜けていて遠くからでもすぐに場所がわかってしまう。
赤竜の姿になれば体長は10メートル越えで、体重は7トンほどになるらしく、瞳の色は変わらずである。竜族と人間族は古くから和平を結んでおり、お互いが協力して生きていた。なので王国が危険に晒されていると聞き駆けつけてきてくれたのである。基本強い敵と戦うことを好み、遥か南に存在する竜の住む大陸では毎日のようにお互いが戦い、優劣を付け合っている。竜王はその中で最も戦いに優れた竜なのである。竜族全員が人間の姿になれるわけでは無いが、強い竜は人型になることができる事が知られている。
この6人がアルメニア王国の王城に集められた。
フェストが扉を開け、縦一列に並んで入場する。扉から入って正面の所に大きな椅子があり、そこには現国王アルス・カール・アルメニアが座っている。正面と言っても扉から椅子までの距離は50メートルはあるだろう。周りには多くの貴族達が綺麗に整列しており、赤い絨毯が敷かれている真ん中だけが空いていた。
集められた人たちは王座から10メートルほど開けたところで立ち止まり、横に並ぶと片膝をついて前を見る。その姿勢はまさに英雄となる者たちの姿であった。それを確認すると国王は立ち上がり話し出す。
「よく集まってくれた。この国の運命は君たち6人にかかっている。魔王を打ち破り世界の平和を取り戻してくれ!」
「必ずや成し遂げてみせましょう!」
周りにいる貴族達から多くの拍手が送られる。フェストはその一言だけ言うと、王城を出ていった。他の人たちもそれに続いていく。
フェストは馬に乗り道を走る。普段は人通りが多く馬では通ることのできない道だが、今日だけは違っていた。
王都に住んでいる国民のほとんどがその道の横に並んで魔王に挑む勇者たちに拍手喝采を送っていた。
この道をまっすぐ行くと王都を出る門がある。順番に並んでゆっくりと道を歩んでいく。
王都から出ると馬の速度を上げた。拍手は王都を出て見えなくなってからもしばらく続いていた。
*
それから1年ほどの年月がたち、勇者たちは魔王城の魔王の玉座の前まで来ていた。
魔王までの距離は約100メートル。周りには魔王以外の魔族や魔物は一切存在せず、この部屋のみが隔絶された世界で誰にも邪魔されない場所だった。倒すチャンスは今しか無いだろう。今回を逃すと魔王は今度の襲撃を警戒し、対策を立ててくる。そうなれば、倒すのは更に難しくなってしまう。
(何としてもここで倒さないと・・・!)
部屋には暗い、どんよりとした空気が流れ、空間にいるだけで冷や汗が流れていた。
いつ戦いが始まってもおかしくない距離だった。この距離なら一瞬で詰めることができるし、魔法もすぐに届く。しかし、魔王は座ったままだった。
「まさかここまで来るとはな。」
魔王は玉座に座り笑っていた。フェストは警戒を緩めることなく、1歩ずつ進んでいく。近づく事に魔王からの圧を受けて下がりたくなる。しかし、フェストは下がらなかった。1度下がると再び戻るのは難しい、一度諦めるともう元には戻れない、という思いで進んでいく。
そう、この戦いには世界の命運がかかっているのだ。俺達が負けてしまえば、俺たちを信じて王国を守ってくれている騎士達に申し訳ない。何よりも街に暮らす人が、他国を含め世界中の全人類が魔王を討伐して帰ってくる俺たちを待っているのだ。
(これは負けられない戦い、絶対に負けてはならない戦いなんだ。落ち着け⋯⋯、相手はまだ何もしていない。この程度の殺気で気圧されてたら討伐なんてできないぞ!)
心のなかで自らを鼓舞する。俺は皆とは違い神からの加護を得ている。
(仲間を信じて後ろについてくれる他の5人のためにも僕が最初に動かないと⋯⋯。)
相手との距離は次第に近付いて行く。近付くほど、初動から相手に届くまでの時間は短くなる。それは相手も同じ。相手の動きを隅々まで、余すことなく見極める。
(一瞬の隙も絶対に見逃さない!己の全てを掛けて魔王を倒すんだ!)
フェストの剣が光り出す。周りから魔力を集め黄金に輝くそれは、まさに勇者にふさわしい剣だった。
「俺達がお前を倒し、戦争を終わらせる!」
フェストの声が部屋に響き渡った。
「魔王であるこの私が負けるなどありえない。」
魔王はさらに口角を上げて、勇者を嘲笑う。
距離がわずか30メートル程となった所でフェストは魔法を放ち、自らも距離を詰める。その左右にトールとガイーダもいる。他の3人は距離をあけて魔法を放つ。
俺には仲間だっているんだ。1人では無理でも、仲間が一緒なら誰が相手でも怖くない!そう思い、自分自身を奮い立たせるのだった。
*
勇者たちと魔王の戦いは何日も続いた。
勇者も魔王も魔力はほとんどが無くなり、次の一撃で決着がつくほどお互いの体力は消耗し切っていた。
「なぜお前達はそこまでの傷を負い、仲間が倒れても、立ち上がることができるのだ!?」
唐突に魔王が聞いてきた。
「この戦争を終わらし、平和を取り戻すためだ。そのために僕達は戦っているんだ。」
勇者は地面を思いっきり蹴って空中へと飛び立つ。魔王は勇者に向かって魔法を放った。今までに無いほど巨大な魔法だったので、まだこれだけの力が残っていたのか、と驚いた。直撃すれば命はないだろう。フェストも魔力を大量に集めている剣から最大級の魔法を放った。剣から魔力は放出され、剣の輝きが消えていく。
魔王の魔法はフェストの魔法とぶつかり合い、衝撃が走り、フェストは吹き飛ばされる。魔王も後ろにバランスを崩した。
今までで1番のチャンスだった。
距離は離れているが、魔王が初めて見せた隙を僕は見逃さなかった。僕は最後の力を振り絞り、雷の魔法を使って高速移動する。魔王は少し遅れて反応するが、もう間に合わない。剣からはほとんど光が消えていたが、フェストほどの剣の実力があれば魔王でも切ることができる。
そして、ついに勇者が魔王にトドメをさした。
「見事だ、人間。だが、残念なことだが、この世界に平和が訪れることは無い。私が敗れたとしても、我が配下である魔族や魔物たちは戦いを止めることはないだろう。なぜなら我々は戦う為に生まれてきたのだから。」
魔王は笑いながら最後にそう言い残して消えていった。
「倒したか。」
フェストはそう呟き、背中から倒れ込んだ。もう立ち上がることもできない。今まで素早く動けていたのが嘘のように疲れが溢れ出し、痛みも体中を駆け巡る。
顎を上げて後ろを視界に移すと、そこには怪我や疲労で立ち上がることができない仲間たちがいた。その中でもトールは重傷だった。
残りの魔力を絞り出しても回復魔法だけでは治すことの出来ない傷だった。それに、回復魔法は使いすぎると体に悪影響を及ぼす事があると知られている。魔力が無い状態なら尚更だ。魔王を討伐した今、過度な回復は必要ないだろう。回復は出血を抑える程度にする事にして、残りは自然回復に任せよう。
少し休憩してから皆で(トールはガイーダに背負われて)王国に向けて帰って行くのだった。
*
その頃王国では
魔物との戦いの最前線である街では多くの魔物が攻め込んできていた。街を守って戦う人も多くいて、後方でも物資の配達などが行われており、街の中でも別の街から送られてくる物資などを仕分けしたり兵士のための食事や治療が行われていて大忙しだ。魔物の被害がない地域でも武器や治療道具など、戦争に使われるものを大量に作っている。国を上げての総力戦で、既に限界が近い状態にあった。
「魔物1体に対してこちらは3人以上で対処しろ!怪我をしている者は無理をせず下がれ!勇者たちは今も魔族と戦っているんだ!王国を守る私たちが先に諦める事は許されんぞ!」
今声を張り上げているのはアルメニア王国の騎士団長であるワイルド・オーダンだ。30歳に団長となり、今は34歳だ。皆からの信頼も厚く頼りになるリーダーである。
(しかし、あれから一年以上経っているが、まだ魔王はやられんのか?勇者たちの信号は途切れていないようだから生きてはいるはずなんだけどな。)
勇者たちには存在を知らせる魔法具を持たせてある。場所までは分からないが、生きているかどうかは王城で確認できるのだ。場所を知らせる魔法具も存在するが、距離があくとうまく反応しなくなるという理由で持たせていないのだ。
誰かか亡くなれば知らせが来るはずだが、知らされていないだけで勇者たちはもう敗れてしまったのだろうか?
有り得ることだ。
知らせがあれば騎士達の士気が下がる事は避けられない。まだ多くの人は勇者が帰ってくることを信じて戦っているが、それも時間の問題だろう。このまま帰ってこなければ、初めは少数でも一気に広がり、前線は簡単に崩されてしまう。
(俺はどうすればいいんだ?)
今この戦場では人間族、精霊族、竜族と魔物が戦っている。
「団長!魔族が現れました!」
魔族は魔物とは違い、遥かに強力な個体である。魔族は数が少なく、ほとんど現れることはないのだが、一度現れるだけでかなり多くの被害を出してしまうことは避けられない。
「出やがったな!騎士団員はそのまま前線を維持しろ!魔族の討伐は俺たちでする!」
ワイルドが魔族に向かって行くとその後ろに精霊と竜が一体ずつついてくる。
「我は魔王軍四天王の1人サイスタンだ。我が来たからにはこの国は滅びるのも時間の問題だ。諦めるがいい!」
サイスタンと名乗る魔族はかなりの巨体だった。近くで見るとまるで山のようだった。見上げても上手く顔を見ることができない。
この魔族は四天王だと言った。この前デモン帝国に四天王が現れた時は追い払うだけで精一杯で、それでもかなり多くの犠牲があったらしい。
(俺達だけで勝てるのか?いや、勝たなければ!ここで勝てば士気はかなり上がるだろう。逆に俺が負ければ士気はガタ落ちだ。負ける訳にはいかない!)
「私たちは諦めない!今勇者たちが魔王を倒すために戦っているのだ。先に諦めるようなことは出来ない!」
「そんなことは時間の無駄だ。劣等種ごときが我が王に勝つことができるわけがないだろう。」
サイスタンは笑っているのだろう。声が震えていた。
「劣等種だと!」
その言葉を聞いて声を出して笑い出した。
「クハハハハ!貴様らを劣等種と言わずしてなんと呼べばいいのか。戦うために生まれてきた我らと比べると貴様らなぞ我らに蹂躙されるだけの、道端に落ちているゴミと何ら変わらない。劣等種と言われるのが嫌ならば、我を少しでも楽しませて見ろ!」
「ならば、貴様を倒して私たちが劣等種ではないことを証明してやる!」
そう言ってワイルドは飛び出して言った。
騎士団長なだけあって剣技のレベルは相当高いものだ。
しかし、サイスタンは腕でそれをガードした。頑丈で骨を立つどころか肉を切る事も難しく、大したダメージにはなっていないようだ。
ワイルドが距離を取った瞬間、風の精霊魔法と竜のブレスがサイスタンに向かって飛んでいく。
しかし、サイスタンの土の魔法が放たれると魔法は押し消され、それでも勢いを止めずに飛んでくる。そのままいけば魔法はワイルドに直撃し、即死してしまうだろう。
「ダメ、くる!」
精霊は叫んで、更に魔法を放って魔法を止めようとするが、勢いが止まることはない。
ワイルドは恐怖して動けなかった。いや、この圧倒的な実力差に絶望していたのかもしれない。たとえどれだけ魔物を倒そうと、この怪物を止められないなら意味は無い。
今までに魔族が攻めてきたことは何度もあった。それでも、私達は協力して倒すことが出来ていた。だが、今回は全く別だ。どれだけ足掻いても勝てる相手とは思えなかった。
(もうダメか。)
そう思ったが、相手の魔法はワイルドに当たることなく砕かれた。
そこには魔王を倒した英雄がいた。
「ワイルドさん、魔王は倒しました。だから、安心してください。」
振り返ってフェストが告げる。
「本当か?」
ワイルドは驚いた様子で聞いてきた。驚きで目上の人に対しての敬語を忘れていた。
「嘘だ!我が王が敗れるなどありえない!」
サイスタンは怒っているようだ。それでもフェストはサイスタンには目もくれず、変わらない口調でゆっくりと答えた。
「はい、本当です。魔王は消滅しました。ここは任せて下さい。私たちで倒しましょう。」
フェストは笑顔で言った。
「はい!どうかお気をつけて。」
ワイルドは泣きながら後ろに下がって行った。後ろの2人も下がっていく。サイスタンの周りには魔物が大量にいたが、ミアが魔法を放つと動かなくなった。騎士達も戦いをやめてフェストとサイスタンの戦いを見守ることにした。
「じゃあさっさと終わらそう。」
「それはこちらのセリフだ。」
サイスタンはすごい速度で手を伸ばしてくる。巨大な手で掴まれれば全身が包み込まれるだろう。
フェストはその腕を見切ってかわしつつ、切り落とした。ワイルドが肉を絶つことさえ叶わなかった鋼鉄のような腕はフェストが軽く剣を振るだけで簡単に落とされた。
「ギャアアアアアアア!馬鹿な、我の腕を斬っただと!フハハハハ、確かに我が王を倒したというのもあながち嘘ではないようだ!今日のところはこのくらいにしておいてやる。だが、次はないぞ!」
最後にそう言い残して逃げていった。
「追いかけないのですか?」
ミアが聞いてくる。ここには六人中フェストとミアがいて、他の四人はトールに付き添って王城へと向かって行った。
「もうヘトヘトなんだ、追いかけたら逆にこっちがやられるよ。」
疲れていると言いつつ、フェストはミアに笑顔を向けていた。
「ですね。私も疲れました。」
ミアはそう言ってフェストに寄りかかった。ミアは小柄で寄りかかればフェストの胸に丁度ミアの頭が当たるくらいである。
「少しの間だけこのままでいさせてください。」
「いいよ、いつまでも。」
フェストはミアの頭を優しく撫で始めた。そしてそのまま2人は長い間見つめあっていた。
*
王城客室
客室のベットではトールが眠っていた。ルナはその横に座ってトールの右手を握っている。
「早く目覚めて。皆あなたが目覚めるのを待っているのよ。」
ルナは握る力を強くする。それでもトールが目覚めることはない。
部屋に人が入ってくる。一緒に魔王を倒す旅に出た仲間たちだ。
「まだ目覚めることはないのか。」
そう言って、フェストは親友であるトールの胸に手を当てる。トールの心臓の鼓動が手に伝わってくる。心臓は正常に動いている。傷も完全に治った訳ではないが、血は塞がっていて命の危険は無いはずだ。
そこでルナは皆に提案した。
「トールを精霊の住処に連れて行ってもいい?空気中に存在するマナの量が多い場所の方が怪我の治りも早くていいと思うのですけど。」
少し間が空いてフェストが言った。
「そうだね、そうかもしれない。」
フェストは少し寂しそうな顔をしている。
「では行ってきますね。そんなに寂しそうな顔をしなくても大丈夫ですよ。一生のお別れになる訳でもないのですから。」
そう言って、ルナはトールを連れて精霊の住処に行くのだった。
トールとルナ、二人はお似合いだ。魔王との戦いはもう終わったんだから二人には幸せになってほしい。それなら俺達がルナを止めるべきではないだろう。トールは必ず目を覚ます。そして、俺達に会いに来てくれるだろう。それまで気長に待とうじゃないか。
トールとルナはいなくなった。他の四人もそれぞれの道を歩んでいくのだった。
次から主人公が出てきます。
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