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Episode07;帰還

 §時空走路ルート5 2374年08月(現在年月)


 誰もが無言だった。

 鎮静剤を投与され強制的に睡眠状態に置かれたマリアを護送車コンテナに入れたウィンは、シンディの許可を貰ってランスロットを容疑者マリアに貼り付けた。現行犯逮捕の宣言は拘束具を付けながら耳元で囁くように行なったが、果たして彼女は理解していたのかどうか。詳しくは専門医務官に診せなければ判断出来ないが、情報部時代に犯罪者の心理的傾向を知ろうと精神医学の基礎を学んだウィンには、マリアの精神崩壊の兆候が痛いほどに見えていた。塞ぎの蟲に取り憑かれたウィンは、帰還のマシンに乗り込んで以来シャツを捲くった腕を組んだまま身動ぎしない。

 本部への帰還時、何時もならシンディは報告書の下書きをする。しかしウィン同様彼女も腕を組んだまま目を瞑っていた。感情を窺い知ることが出来ないその顔は、さすがに疲労の色が隠せない。行き掛かり上やむをえなかったとは思っていたが、TPで最も避けなくてはならない罪、歴史介入を大胆にやってしまった。

 彼女は出発前に事の経緯を第一報にして本部へ送ったが、上司のガーバー少佐は不在、副官がシンディに負けず劣らずの無表情で受領した。続けて5世紀駐在隊指揮官マスクレイド中佐にも簡単な報告をしたが彼も口が重く、虚数域あくうかんに放置したマリアの空間オリジナルは本部側が責任を持って回収すると伝えても、ただ頷いて「もういいから早く帰りなさい」とにべもなかった。彼としては情報部からシンディたちの行状をコントロール出来なかったと咎められるのを恐れていたのだろう、それではこれで、と敬礼するシンディにスクリーンの中佐は叩きつけるような答礼をして自らアクセスを切ってしまった。彼女は胸の内で何とも言えぬ倦怠感を感じながら物思いに沈んでいた。

 スペンドも何時もならシネマを見るか、何か過去の面白いエピソードをライブラリーから取り出してウィンと戯れるのだが、今日はぼんやりとデフォルトの環境映像を眺めていて大人しい。彼は今日の結果については、精一杯やった挙句の歴史介入でありとやかく言っても、とさばさばしていた。それより、ジョーの二面性に今一つ納得のいかないものを覚えつつも、この大胆な男に魅了され始めている自分を感じ戸惑っていたのだ。

 そのジョーは、と言うと、音楽ライブラリーから引き出してタグ経由で聞いているのか、目を閉じて指が想像上の鍵盤を叩いている。その掴み所のない涼しげな顔は、シンディの無表情とはまた違って人を煙に巻く力があった。それを横目で見ながらスペンドは何度目かの大きな吐息を漏らすのだった。

 ふと、シンディのスクリーンが明滅し、シンディたちの上司、ガーバー少佐が現われる。敬礼するシンディに、先ほどのマスクレイドそっくりの怒りを滲ませた答礼をすると一言、

「君たちには何時も驚かされてばかりだ」

「申し訳ありません、ご報告を」

「それは明日以降、報告書で貰おう。事情は聞いた。情報部から早くも苦情がウエに出たそうだ」

「重ね重ね申し訳ありません」

「全く君たちには驚くばかりだ、え?」

 シンディが何か言う前にガーバー少佐はスクリーンから消えてしまった。

 容疑者を逮捕したとは言え歴史に介入し、現地の過去人に多数の死傷者を出した結果に怒り心頭、といったところなのだろう。横で聞いていたウィンは、無茶をしたとは言え保護対象は守ったのだ、多少は褒めてもよかろうに、と思ったが顔には出さなかった。

 何れにせよ、これは難しい事例になる。TCがこれからも姿を隠して騒動を起こすことが出来るのなら、TPは人員・装備とも益々増強せねばならなくなるだろう。

 事件後の捜査は作戦部刑事課が国際警察機構インターポリスの時空犯罪取締局に協力する形で執り行わるが、これは警察権力の縄張り意識が働いた妥協の産物だ。現在、逮捕後の捜査は殆どが時空犯罪取締局で行なわれTP刑事課はオブザーバーに過ぎない。しかし以前より効率化のためにTP主導で、という声もある。今後、その声が大きくなることも考えられるだろう。TCの犯罪を実行犯で抑えることが難しくなれば、TPはただ事件を記録しその後の捜査を眺めるだけの存在に成り下がる危険があるからだ。

「マリア・ウエハラは情報部の優秀な分析官アナリストだった」

 唐突にジョーが話し始める。まだ音楽は掛けたままだ。

「もちろんシンディは知っている。ウィンもスペンドも聞いたことがあるね、『エリザベス事件』。マリアも私もそいつにどっぷり浸かっていたんだ」


 5年前。22世紀人であるエリザベスという女性が引き起こした、時空犯罪史上稀に見る広域かつ凶悪な事件。エリザベスは父の莫大な遺産を使って、過去を滅茶苦茶にしようと計った。その影に現代人の協力者を感じたジョーはプロジェクトチームを率いて対決したが、犠牲も少なくなかった。5人の捜査官エージェントが殉職。その中にジョシュア・マーチンがいた。

「ジョシュとマリアは似合いのカップルだった。誰もが羨むほどの仲の良さでね。しかし、あの時、彼はTCのアジトを発見すると我々の到着を待たずに独行してしまった・・・

 何故マリアがスクラップの、魂がないピッカーを私にけしかけたか。その理由がジョシュの死に方だ。あの頃はAPC(対ピッカー電脳支配システム)なんてなかった。ジョシュは自分のピッカー諸共、感情を司るチップを抜かれて殺人鬼と化したピッカーの集団に八つ裂きにされたんだ」

 ジョーは擬似ボードを掌で叩いて乱暴に音楽を切る。そして宙を睨みながら、

「マリアはTPから消えた。その後一味は逮捕され事件は解決したが、我々には苦い教訓が残った。APCが開発されたのも常駐隊が強化されたのもそれが原因だ。未だに解決していない部分もある。それを何とかしようとやって来たんだが・・・」

「何事も立場と捉え方ですよ」

 静かにスペンドが言う。

「恨みは簡単に消えない。それは自己暗示みたいなものですからね。犠牲があって、それが2度と起きないように対策があって、それでも犠牲があった事実は消えない。TCどもが過去をどんなに変えても現在がびくともしないように。マリアを慰めるものはもう、復讐しか残されていなかったんでしょうね」

 誰もそれ以上、付け加えることはなかった。苦い現実は彼らの奥深くに刻まれてしまったのだ。後はそれが教訓として生かされるかどうか、それだけが問題だった。


 物思いに沈む4人を乗せ、マシンが5世紀を出て1時間ほど、8世紀近辺を進行している時にそれは起きた。

 4人の前に展開するスクリーンが一斉に切り替わり、男の姿が現れる。

「AD機動執行4班の諸君。こちら法務部警務課だ。諸君らに拘束命令が出ている。容疑は『年紀改変罪』及び『職権乱用罪』だ」

「何?」

 スペンドはきっとスクリーンを睨む。ウィンは肩を竦め、シンディは目を開くが表情は変わらない。ジョーは微笑んだ。

「済みませんが大佐殿、容疑の内容を教えて頂けますか?」

 スペンドがへりくだって言うと、大佐はタイムラグを経て口角を上げ、皮肉交じりに、

「保護対象を護るためとは言え必要以上の武力介入を行い、歴史に大きな損傷を与えたこと。たとえTCに操られたとは言え、現地住民と交戦、数十名の死者も確認されたこと。任務執行権限を越え、退避せずに歴史介入を続けたこと。まだあるが、大きなものはこの3点だ」

 スペンドは何か言い掛けたが、その前にシンディが、

「承知致しました。このまま待機でよろしいですか?」

 大佐は数秒遅れて頷くと、

「全員そのまま待機だ。ピッカーと火器類は即没収する・・・と、まあ、本来ならこのような手順で君らを厳罰が待っているのだが・・・私は個人的には君らの行動を許せない。いいか、2度と無茶はするなよ、私は釘を刺したからな!」

 大佐は謎のようなことを言うと、最後にこちらを睨んで画像から消えた。シンディが眉根を寄せ、ウィンとスペンドが顔を見合わせると画像が切り替わり、制服姿も凛々しい本部の女性秘書官が登場する。その右肩には白く00の数字。

「AD機動執行4班の皆さん、お揃いですか?」

 シンディはちらっとジョーの横顔を振り返る。その顔に謎めいた笑みを認めると、

「ええ、全員待機しています」

 秘書はにっこり微笑むと、

「暫くお待ち下さい」

 画像が消えると、珍しくシンディは苛立った声音で、

「ジョー。あんたまさか、」

「そう。仕組ませて貰ったよ。君ら4班は誰が何と言おうが執行班ナンバーワンだ。あの7班の気障野郎がどんなに上へ媚を売ろうとその事実は変わらない」

 ジョーは思い出し笑いをすると、

「マリアは色々な場所にTPの先鋭を誘い込む罠を仕掛けて回っていた。7班のサラトガ戦もそう、君らのゲーリングの一件もそうだ。彼女が情報を仕入れていたルートは3ヶ月前に解明していた。

 私は確実に彼女が狙うよう、エサの比重を増やしたのさ。スウェーデンで潰し損ねた執行班のトップ4班。しかも憎むべきジョージ・ウォーカーが参加する。彼女が仕掛けない訳はない、と思ってね。だから君らが休暇開けとなる日程も、5世紀に派遣されることも彼女に筒抜けになるよう手を尽くしたのさ。」

「この下司!」

「まあ、シンディ、そう怒るな、君らにだけ危ない目に遭わせた訳じゃないだろ?結果は上手く行ったじゃないか?」

「よく言うな、行き当たりばったりだったくせに」

「参った。その通りだよ。お?お偉いさんが出る。一つ傾聴しようじゃないか?」

 尚もジョーを睨みながらシンディは密かに吐息を吐き、一瞬ノイズに点滅したスクリーンに目を向ける。画面が切り替わると、そこに初老の男が現れる。

「4班の諸君、おはよう」

 全員、画面に向けて敬礼する。画面の男も答礼した。

「ジョージのピッカーがやられたようだが、諸君に怪我はないようなので、一安心しているよ。まずは所期の目標を達成したようだね?ジョージ」

「ああ、多少てこずったけどね」

「それはなによりだ。君らに出ていた総務部と法務部からの拘束命令は私が取り消した。私からの直接命令による執行権限の拡大解釈だ、とね。だから彼らを黙らせるために約束したことを先ずはしなくてはならん。シンディ・クロックフィールド大尉」

「はい」

「君は部下が執行権限を越えて行動した時に黙認し、追随した。所属長による戒告処分とし、一ヶ月の職務停止を達する」

「申し訳ありませんでした」

「次に、ピエール・ド・ウィンスラブ中尉とマイクル・スペンサー少尉」

「はい」「はい」

「君らは上司の行動が規律を逸していると判断出来る立場にいたにも拘らず、行動を共にし、少尉に至っては独断専行した。同じく所属長による訓告処分とし、一ヶ月の職務停止を達する」

「遺憾に存じます」「済みませんでした」

 初老の男はそこで一息吐くと、

「そして、ジョージ・ウォーカー大尉。君は正規業務外に別途、特別執行命令を受け、保護対象を護るため行動したとは言え、TCが仕掛けた歴史介入を拡大し結果的に対象年紀に深い損害を与えた。従って長官による戒告処分とする」

「承ります」

 神妙な顔をして返すジョーを暫し見つめていた男は、通信遅延シグナルラグの数秒後深い溜息を吐くと、

「昔なら尻を出せ、と言って2,3発平手で叩いてやったところだが・・・彼女を追い詰めるためとはいえ、随分危ない橋を渡ったものだな。全くお前にはいつもヒヤヒヤさせられる」

「済まない、これも性分だから。でもね、マリアは抑えたが、彼女がTCどもに流したテクニカルやウチの情報は、今後第2、第3のマリアを産みかねないよ。覚悟しといたほうがいいね」

「もちろん分かっている。味方は少なく、やらねばならないことはただでさえ多い。ジョージ、もう無茶をするなよ、今、お前に死なれたら私はちょっと困ったことになるからな」

「了解しました、長官殿」

 画面の男、TP長官はそこで表情を緩めると、

「シンディ。ウチのじゃじゃ馬の世話を押し付けて済まなかった。謹慎1ヶ月を有効に使いたまえ」

「この前1ヶ月休んだばかりですが」

「まあ、いいじゃないか。君たちは有給休暇をきちんと消化していないそうだからね。謹慎は休みではないが軟禁されるわけじゃない。滅多にない機会だ、しっかり休め。その後はますますきついことになりそうだからね」

「了解致しました」

 そこで長官は笑みを浮かべると、

「ウィンスラブ君」

「はい。長官」

「前に何かの懇親会でワインの話をしたね」

「覚えておいででしたか」

「ああ。中々本物のフランス貴族と話す機会がなくてね。現代のヨーロッパ連合で貴族称号を持っているやんごとなき方々は単なる飾りだからね。よく覚えているよ。それで、ボルドーの逸品が手元にあるんだが、君に一本贈呈しよう。2323年。いい出来だよ」

「そんな・・・勿体ない」

 慌てるウィンに長官は、

「ちゃんと味の分かる人間が飲むべきなんだ、銘酒というのはね。明日、長官室で渡そう」

「ありがとうございます」


「スペンサー君」

「はい」

「スペンド君、と呼んだ方がいいのかな?」

「ご、ご随意に」

 珍しくどもったスペンドに長官は満面の笑みで、

「ジョージは君を弟か何かのように言っとったよ。この男は食わせ物だから、これから君も苦労するだろうがね。どうかジョージのことをよろしく頼む」

「・・・了解しました」

 そこで長官は表情を引き締めると、

「それでは諸君。明日、帰還後に長官室で会おう。ご苦労様でした」

 皆が一斉に敬礼し、長官は頷くと画面が消えた。一瞬の後、あの女性秘書官が現れ、明日の長官とのアポイントメントを確認する。彼女も消え、スクリーンが環境映像に変わると、誰ともなく吐息が漏れた。

「長官と話したのは初めてだ」

 スペンドがぽつりと言う。

「いい人だろう?ワインを貰ってしまったよ。何をお返しすればいいんだ?」

 ウィンもまだ呆けたようになっている。

「仕事で返せばいい」

 シンディは頭の後ろに腕を組んで天井を仰ぎ見ている。何時になく穏やかな表情を浮かべていた。

「皆、申し訳なかったね」

 ジョーは神妙に、

「だが、全ては始まったばかりだ。これからもよろしく頼む」

 そしてシンディに、

「それと、折角育て上げた部下を連れて行く私の我侭も許して貰いたい」

 シンディはちらっとジョーを見やり、

「全く、本当に酷い話だ。2人も抜けてまたウィンと2人きり。一ヶ月後、4班はどうすればいいんだい?」

「その辺は考えている。スカウト課とニックおじさん(作戦部長)から逸材を推薦して貰った。1人は19世紀江戸末期の日本人、もう1人は22世紀のアフリカ連合人だそうだ。適応訓練と初期課程は修了している、2人とも抜群の成績らしいよ。帰ったら面接してくれ」

「全く、何時そんな段取りを。手回しのいい・・・」

「一体、何の話をしてるんです?」

 スペンドが割って入る。シンディは吐息を吐き、ジョーは思わず笑い出す。

「多分君の転属の話だろう・・・長官が匂わせていたからね、スペンド」

 ウィンがつまらなそうに教える。しかし、スペンドはまだきょとんとしていた。

「転属?」

「やれやれ、このお兄さんは一体何を聞いていたのかな?」

 ウィンは肩を竦めると、突然立ち上がり、すたすたとスペンドのシートの前に来る。そして、クイクイッと手招きする。何か、とスペンドが立ち上がると・・・

 びっくりするスペンドをよそにウィンは激しい勢いでスペンドの肩を抱き、引き寄せた。

「この跳ね馬野郎め、寂しくなるなぁ!」

 棒立ちのスペンドを、ウィンはがっちりと抱きしめている。何か気の効いたことを言おうとしたスペンドは、自分の首筋に当たるウィンの頬につと流れるものを感じて、はっとした。

「そうか、俺は・・・」

 スペンドはそう言い掛けて絶句する。目頭が熱くなったのに驚いたからだ。

「いずれにしても一ヶ月は休暇だ。三ヶ月で2週間しか働かないで済む、なんてこの先考えられないからね、スペンド。長官直属ゼロゼロのマーキングを付けた奴は長期休暇リフレッシュなんて気の効いたものはないから、覚悟して置けよ。私は君をそう滅多やたらに休ませないぞ」

 ジョーは穏やかに言うと、何かを思い出して、一人笑い出す。

「それにしてもだ、今日の長官殿は最近になく機嫌が良かったじゃないか?そうは思わないか?」

 ウィンは涙目を制服の袖で擦る。

「さあ、分かりませんね。私は数回しかお会いしたことがないもので・・・シンディなら何度もご一緒しているはずですがね」

 しかしシンディは右手を振って話を振るな、と伝える。ウィンは肩を竦めて、

「私ら前線の者は、お偉いさんを見慣れている訳ではないですから」

「オヤジは何時だって君らのこと、現場を忘れていないよ」

 ジョーはスクリーンを見つめていたが、その目は遥か彼方を見遣るように細められていた。

「セシル・ウォーカーが長官でいる限り、彼と私はTPを、君らを護ると約束する」



本作に登場した歴史上の重要人物『ファンクションキー』たち



ウィリアム・ピット(小ピット) 1759〜1806


イギリス首相・政治家。チャタム伯爵ウィリアム・ピット(イギリス首相)の次男。同名で、しかも父子とも首相のため、父を大ピット、子を小ピットと通称する。幼少より病弱だったがいわゆる神童で、14歳でケンブリッジ大学に入学。これは未だに同大の最年少入学記録。

1780年下院選挙に出馬するも落選、翌年の欠員補充選挙で初当選する。表舞台に登場するや国王ジョージ3世の好意を獲得、アメリカ独立戦争による政治の混乱と一般民衆の熱烈な支持もあり、1783年僅か24歳でイギリス首相となる。

その後17年間の長期に渡り保守政権を維持、イギリスを牽引する。この間、フランス革命を受け、ナポレオンの台頭まで3回に渡り対仏大同盟を組織したので、人民の敵と呼ばれ、フランス最大の敵対者となる。

政治ではイギリスの保守勢力を糾合して2大政党政治の礎をなす。また、アメリカを失った大英帝国の混乱を収拾しアイルランドを併合、連合王国を成立させる。

国王との意見相違(アイルランドのカトリック教徒問題・01年)により首相を辞任するが、対ナポレオン戦争の激化により04年首相として復活。しかし翌1805年12月、対ナポレオン戦争の天王山、オーステルリッツの戦いにおいての対仏同盟側大敗の報を聞いた直後、病に倒れ、翌年1月ほとんど敗戦のショック死といえる最期を遂げた。


ジョージ・ワシントン 1732〜1799


アメリカ合衆国初代大統領・軍人(中将)・政治家。バージニア州の中流家庭に生まれ、農園主となる。兄ローレンスの死により地区民兵隊長となり、フレンチ・インディアン戦争に従軍する。

その後裕福な未亡人マーサと結婚し社会的地位が向上すると、本国イギリスと植民地13州との軋轢で頭角を現し、1775年レキシントンの戦いの後、大陸軍を組織、総司令官として独立戦争を戦う。1777年、当時の首都フィラデルフィア陥落後の危機に際し、ヴァリーフォージにおける冬営で部隊を再建、翌年から次第にイギリス軍を圧倒、遂に勝利を得る。

1783年には総司令官を退き、農園主に戻ったが、1787年請われて政界に復帰、憲法制定会議議長となる。1789年第一回大統領選挙で圧倒的支持を受け初代大統領に就任。イギリスとの関係修復やフランス革命後悪化していたヨーロッパでの戦乱におけるアメリカの中立に尽力した。

1797年大統領職を辞任、1799年暮、寒波の中での馬による外出後に発熱、肺炎を起こして死去した。


ヘルマン・ゲーリング 1893〜1946


ドイツの軍人・政治家。バイエルンにて高級官吏の子として出生するが、その後の人生から見ると皮肉なことに実父は母の愛人だった裕福なユダヤ人貴族と推定されている。1901年に陸軍士官学校入学、以降第一次大戦終了まで軍人として生きる。

第一次大戦直前では陸軍歩兵少尉だったが開戦後に航空隊を志願、1915年偵察飛行士を経て戦闘機パイロットとなる。大戦中敵機22機を撃墜、また、戦死するまで撃墜王リヒトフォーヘンが率い、最高の戦闘機大隊と謳われた第一戦闘機大隊長にもなり、最高武勲章プール・ル・メリット勲章戦功章を受ける。

終戦後、ドイツ革命に嫌気が差し、軍を辞め、曲芸飛行士や輸送旅客機パイロットとしてヨーロッパを放浪、スウェーデンで将来の夫人カリンと出会う。

1922年ミュンヘンでヒトラーと出会い、意気投合、翌23年ヒトラー一派のミュンヘン一揆で主要メンバーとなり妻カリンと共にドイツから逃亡する。

27年恩赦により帰国するとナチス党に復帰、28年国会議員、32年国会議長、33年ヒトラーのドイツ首相就任に従いプロイセン州内相となり、事実上ドイツの国家権力を掌握する。この間、最愛の妻カリンを病気で失っている。

35年ドイツ再軍備の際誕生した空軍を掌握、以後第2次大戦終了直前までドイツ空軍総司令官。第二次大戦勃発後の40年、国家元帥の称号を得て、ナチスドイツナンバー2の権力者として君臨する。また、悪名高いユダヤ人の最終的解決(拘束・収容し虐殺)などの決定に際し主要な立場にあり、ゲシュタポ(国家秘密警察)の元となる組織を作ったのもゲーリングである。

終戦後、連合国に戦犯として逮捕、ニュルンベルク裁判にて有罪・死刑を宣告されるが獄中、密かに手に入れた青酸カリのカプセルを呷り自殺して果てた。


アッティラ 406?〜453


ゲルマン民族大移動の原因のひとつとなった、モンゴル系と思われるものの未だに正確な正体不明の騎馬民族、フン族の王。『神の鞭』『神の災い』と恐れられた。

フン族王ルーラの甥として生まれ、兄弟ブレラと共に王の下で成長する。幼少の頃、西ローマ帝国より人質として送られていた貴族の子アエティウスと知り合い友人となるが、その後ローマに帰還したアエティウスはカタラウヌムの戦いで総大将となりアッティラの軍を散々に打ち破ることになる。

434年ルーラの死後ブレラと2分割の形でフン族とゲルマン、スラブの従属民族を従えたが、445年、ブレラを狩の最中に事故と見せかけ謀殺しその所領を加え単独の王となった。その後東ローマに攻め込み大勝、アッティラの帝国はローマ世界を崩壊寸前に追い込む。

451年、フン族とゲルマン諸民族連合軍で西ローマ支配下のガリア(フランス)に攻め込むも現パリ東方のカタラウヌムで西ローマや西ゴート族らと対戦、大敗を喫する。翌年、進軍方向を南方に変えローマ近くにまで進軍するが兵が疾病などで疲弊したため賠償金を手に入れただけで撤退する。

453年、自らの婚礼の酒席で泥酔、寝ている最中に鼻血を喉に詰まらせ窒息死する、という疑惑の死を遂げる。

翌年従属民族が蜂起、アッティラの長男エラクが敗死し、フン族の帝国は崩壊に至る。



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