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1日目夜

 竟次の家は第二の実家と言っていいほど居心地が良かった。終始和やかに過ごしたし、竟次の母のご飯は相変わらず美味しかった。……そして気を抜いて見事に竟次の眼鏡を踏み潰しても、笑って許された。


 いや、そこは笑って許しちゃダメでは?


 「あらあら~またやっちゃったわね~」とか「大丈夫か美夜ちゃん、足切ってないか?」とか、言う事はそれだけでいいのか竟次母および竟次兄。ありがたいけれども。

 子供のころは美夜の親が弁償していたようだが、美夜も社会人である。

 自分で払おうと直角に頭を下げつつ諭吉を渡そうとしたら、「美夜に壊されるのが懐かしすぎるからいい」とか謎のことを言われ受け取ってくれなかった。今度、自社のメガネフレーム無料引換券を送りつけてやろうと心に決めた。


「しっかし、美夜のその呪いまだ残ってたんだなぁ。受験勉強してた頃は落ち着いてただろ?」

 現在、予備の眼鏡(やはりアンダーリム)をかけた竟次の運転する車の中である。

 あまりにも華麗に眼鏡を破壊していくので、竟次は美夜の体質を「呪い」と言っていた。きっと前世で眼鏡と何かあったんだ、などと笑って。

 ――実際、こんな世界を作った一因ではあったので、否定できなくなったが。

「大学時代もほぼ無かったよ……自分のPC用眼鏡はよく落としてたけど……」

「落としてたのか!」

 竟次の笑い声が響く。

 しかし彼も美夜に壊されることに慣れすぎではないだろうか。しかも今後、万が一攻略が進んだ場合はイベントの三分の二で眼鏡が壊されるのである。それに全く怒らない竟次は懐が広すぎではないだろうか。いろんな意味で。


「――元気出たか?」

「……え?」

 脈絡のない言葉に驚いて竟次を見ると、彼はまっすぐ前を向いたまま、しかし柔らかな笑みを浮かべていた。

「なんか、悩んでるみたいだったから。つい強引に誘ったけど、気分転換になったか?」

「竟次くん……」

 幼馴染の気遣いに、思った以上に胸を打たれた。

「……うん。なった。ありがとう」




******




 アパートの前で降ろしてもらい、車が見えなくなるまで見送ってから美夜は部屋に入った。

 ――そうだ、イベントのことばかり気にしても仕方が無い。スルーできる場合もあるとわかったのだから、深く考えないで過ごせばいいのだ。

 攻略対象だろうがなかろうが、竟次は大事な幼馴染だと再認識できたのが今日の最大の収穫である。


 気分が良くなり、思わず鼻歌をうたいながら寝る準備をする。









「……………ぇ…か………」


 ふと、何か聞こえた気がした。


 周囲を見回しても音が出るようなものは何もない。テレビもつけていないし、スマホに着信もない。

 気のせいか、と寝間着を取り出そうと前を向いて。







「……聞こえるか……」



 間違いなく、渋い男性の声が聞こえて美夜は顔を青くした。



「聞こえるか……おぬしは眼鏡と縁があるの……」


「しかし何やら悪縁ともなりそうな卦をもっておる…」


「ゆえにワシが、おぬしに暫く知恵を授けよう……」



 美夜は思い出した。

 そう、夜はこのイベントがあった。

 会社では覚えていたのに、竟次の家にいる間に忘れていたのだ。




「そう、ワシは眼鏡を統べる眼鏡の神……」








「人呼んで、メガミじゃ!」






 ……おわかりいただけただろうか。出オチその二である。


 眼鏡要素をこれでもかと詰め込んだのに、まだ物足りなかった親友は、夜パートの最後に眼鏡の豆知識を流す(どうでもいい)イベントを毎晩入れた。

 その豆知識を披露するのが、この天の声と化した眼鏡の神である。

 オッサン声でメガミかよ! 女神(めがみ)じゃねぇのかよ! というツッコミ待ちなのである。ゲームでは最初の台詞の時に【聞こえるか……(イケオジ声)】と丁寧に書く羽目になったのだが。


「……? 聞こえておるか?」

「アッハイ」

「疲れておるのか? 早めに休んで眼も労るのじゃぞ」

 メガミに心配された。何故かそのことで更に疲労が増した気がする。


「そうそう、知っておるか。眼鏡を作るのは午前中がおススメじゃぞ。時間が経つほど目に疲労が溜まり、正確に測れなくなるからの。すでに眼科で処方されていたとしても、眼鏡屋で試し掛けをするからやはり午前中に行くべきじゃ」

 サラリと豆知識を言われたが、相槌を打つので精一杯だった。

メガミ様主軸ならローファンタジーでも良かったのですがね……。

この後そんな喋りません。

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