1日目朝~夕方
しばらく人物紹介(という名のネタ放出)回が続きます。短いです。
ブクマしていただいた方、本当にありがとうございます。
ゲーム開始1日目から4日目までは、攻略対象に出会うシナリオのオンパレードである。
「野島先輩? 何かありました?」
会社の後輩、境鉱太が美夜の心境の変化をいち早く気づくのもイベントである。
「何もないよ。境君、今日は事務作業だけよね?」
「そうです」
「私も今日は特に出るトコはないから、分からないことあったらすぐ聞いてね」
「了解です!」
この明るく、皆に好かれる三枚目は今年の新入社員。主人公と同じ部署に配属され、よく面倒をみることになった攻略対象(22歳・年下後輩・丸眼鏡)である。
主人公の失恋話にも付き合って飲みに行くいいヤツだ。
なお美夜は主人公特権だったのか、幼いころから他人の眼鏡にぶつかって壊す、もしくは曲げることが多い謎体質があった。
鉱太とも度数が合っていないのか、ただ単に距離感がおかしいのか、よくぶつかり眼鏡が曲がる。
(よく考えると眼鏡壊す頻度高すぎだし、眼鏡の人からすると私ってただの破壊神じゃないの?)
ひたすら親友が眼鏡ネタに拘った結果の体質だったが、大変迷惑な人物である。眼鏡にとってはむしろ敵ではないのか。そういえば親友も眼鏡だったが、『実際に主人公いたらお近づきになりたくないよね』と言っていた気がする。
親友よ、まさにその近づきたくない人に美夜はなってしまっているぞ。
ゲームシナリオだと今日の昼食で外出がてら鉱太に愚痴を言うのだが、美夜はすでにコンビニでおにぎりを買ってきている。
少しだけ緊張していたが、何事もなく社内で昼休憩も終わったので誰にも気づかれないよう、安堵の息を吐いた。――強制イベントも美夜次第でスルー出来る。これが分かれば充分だ。
「先輩、これ……わっ」
「うわっ! さ、境君大丈夫!?」
「大丈夫です……眼鏡が……オレを守ってくれました……!」
ただし、ぶつかって眼鏡を曲げるイベントは起きた。そこを強制にしてどうするんだ世界。
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「美夜?」
帰宅中に後ろから声を掛けられ、振り向くとこそには眼鏡がいた。
違った、眼鏡をかけた男性がいた。
「竟次くん、久しぶり」
「おう。お前この辺に勤めてんのか?」
「うん。竟次くんも?」
「俺は本屋からの帰り」
金城竟次。彼も攻略対象である。
小さい頃から遊んでもらってた三歳上の、お隣のお兄さん。主人公が大学受験の時は家庭教師をしてくれ、現在は塾講師をしているはずだ。
主人公の元彼のことも知っている、良き話し相手(27歳・年上幼馴染・アンダーリム眼鏡)だ。
「ああ、あの大型店すごいよね。何でもあるし」
「なー。あ、美夜はもう帰るのか? 送ってくよ」
「私もう家を出て一人暮らしよ?」
彼は実家のお隣さんだ。行けない距離ではないが、遠回りになるだろう。そう思って断ったのだが、竟次は何か考えている。
「……久しぶりにウチで食事しないか? 母さんも兄さんも喜ぶと思う」
「え」
「帰りはちゃんと送るから」
送ることは変わらないのか。
そういえば竟次宅でご馳走になるのはイベントだった。
「でもいきなり行くなんて迷惑でしょう?」
「平気だって。すぐに連絡するから。な、来いよ」
あまり固辞してしまうと今後の実家ご近所付き合いに影響が出そうだ。
美夜は悩んだが、お言葉に甘えることにした。
二人で電車に乗ると、竟次はメッセージを送る。
「……おばさん、やっぱり大変じゃないの?」
「――全然。ホラ」
見せてくれた画面ではすでに返事がきており、『美夜ちゃんのことちゃんとエスコートしなさいよ!』とのコメントとお花のスタンプがあった。
歓迎されているようで安心する。
「せめてお菓子買ってくよ。駅前でプリン買わせて」
「そんな気にしなくていいのに」
「私、もう社会人なんで!」
「はは、そうだな」
攻略云々を置いておけば、竟次は全く飾らなくて済む相手だ。
彼の家に行くまで、話題は尽きなかった。