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近衛騎士エドガー・バーミリオンの独白 2



 あなたがくれた最後の贈り物

 私は精一杯楽しんだわ


 人生で一番、楽しい3ヶ月をありがとう


 けれど、ほんの少しだけ我儘を許されるなら……


 いいえ、ダメね。

 やっぱり、それだけは一生言えない





 3ヶ月の旅は、その殆どが馬での旅だった。


「馬には子供の頃乗ってましたから、乗ることは乗れますよ。走らせるのはさすがにブランクがありすぎて難しいですけど」


 そう言って微笑む少女と、基本的に相乗りしたのはエドガーだった。

 決して楽な旅ではなかったが、公爵令嬢で、ゆくゆくは王太子妃となる予定だった少女は終始楽しそうだった。


 女騎士マリは最初、我儘公爵令嬢の世話を侍女として焼くのだと思っていたようで、瞳の奥の不満を近衛騎士として上手に隠していたようだった。

 が、止む無く野営をしなくてはいけなくなった時に、少女が我儘を言わずに、むしろ率先して料理を手伝い洗い物をしようとする姿を見て、見る目を変えたらしい。


「だってもう、この手が荒れても傷ついても問題ないですもの。それよりも、お料理も、お洗濯もやったことがないので、やってみたいんです。なので、どうかお手伝いさせてください」


 公爵令嬢とは思えない発言に、近衛騎士でありながら目をぱちくりとさせたのはマリだけではなかった。きっと、少女の家族や王太子も、この発言を聞いたら驚くに違いないだろう。

 それほどまでに、彼女は貴族の令嬢らしくなかった。


 共に旅した3ヶ月、彼女はとても楽しそうに生きて、国の様々な所を慈しむように見て回っていた。

 そこまでくれば、彼女が噂に聞く悪役令嬢とは違うのだと確信する。

 3ヶ月の執行猶予も、恐らくそういったものに関係しているのだろう。


 けれど、どうして彼女が追放されなくてはならないのかが分からない。


 3ヶ月と言う期限まで、あと2週間というタイミングで辛抱しきれなかったらしいマリが、とうとうヘンリーに詰め寄った。


「いったいどうしてシルベチカ様が国外追放なんて刑を受けなくてはいけないの」

「王命だ。答えることはできない」

「なぜ!? どう考えたって、シルベチカ様があんな非道なことできるわけないじゃない! 国外追放だなんて……」


「……いいですよ、お答えしましょう」


 言い争う2人の声を聞いて、シルベチカ様は苦しそうに笑ってそう言った。

 どうしようもなく、泣きそうな、耐えるようなその笑顔を見て、エドガーは苦しくなる。


 真実を求めていたはずなのに、聞いてはいけないのだと胸の奥底で警鐘が鳴るような気持だった。


「……シルベチカ」

「いいんです、ヘンリー様。マリ様にもエドガー様にも、知る権利があります。……ですが、どうかお願いします。絶対に他言しないでください」


「そうでなければ、この2年。私がしてきたことが無駄になってしまうのです」 と、少女は俯きながら付け足した。

 場所を変えて、宿の一室。

 すっかり手慣れた様子のシルベチカにお茶を淹れてもらう。

 その茶を一口飲んでから、エドガー達に少女はゆっくり話し始めた。


「私が、マーガレット様に非道なことをしたというのは本当です。私は、今までの私が10年かけてやってきた全てを、マーガレット様に押し付けたのですから」


 そうしてエドガーは、少女の真実を知り絶望の涙を流すことになったのだった。






 もしも、自分に力があったのなら、

 ただ一人、震えながら立ち続ける少女を守ることができたのだろうか


 自分には救えなかった

 その震える手を引き寄せるだけの力を持たなかった


 その力を持っている唯一こそ、少女が最期まで守りたいと願ってた全てだったのだから



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