1年後のはなし 1
一番叶えたい願い事が、叶わないと知った日に
他の願い事は叶えてくれると約束してもらったの
叶えてほしいと願ったら、とても悲しくて辛そうな顔をされたけど
私はきっと、笑えてたと思うわ。
それから1年がたった。
シルベチカが国からいなくなっても、世界は何も変わらなかった。
マーガレットは才女と呼ばれ、子爵家の令嬢から侯爵家の養女となって、来月ユリウスと婚約することになっている。
子爵家という身分から当初は「王妃など到底無理だろう」「愛妾が関の山だ」と軽んじられていたが、彼女の才覚と子爵家の令嬢としては異常なほどの品格の良さに貴族界隈で見る目が変わり、また社交が得意で王立学院での態度もよかったのか、若い貴族達には概ね受け入れられている。
なにより、王太子妃教育は才女と呼べるほどすらすらと覚え、もうすでに国内外問わずどこに出しても申し分ないほどだという。
ユリウスは満足だった。
あの日、シルベチカに婚約破棄を言い渡して正解だったのだと。
けれど最近、マーガレットの様子がどこかおかしかった。
心ここにあらずといった様子で、ふとした時に悲しそうに空を眺め、ユリウスを見ては切なく微笑み、夜になれば月を見て泣く始末だった。
「何か、憂い事でもあるのかい?」と、ユリウスが尋ねても、マーガレットはフルフルと首を振って「なんでもありません」と言うばかりだった。
ある日、マーガレットが倒れたと聞いてユリウスは慌てて彼女を見舞った。
宮廷医に不眠がたたって、熱が少し出ただけだと言われホッと胸をなでおろしたユリウスは、それでも不安で眠るマーガレットの側についていることにした。
その時に、彼は見てしまったのだ。
「……シルベチカ様」
そう、寝言を呟いて涙を流すマーガレットの姿を。