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王太子ユリウス・アラウンド・ランフォールドのはじまり 1



 たとえば、この世界が残酷であったとして、

 私はどのくらい不幸せだというのだろう。


 私は、今に至るまで私の人生を、不幸せだと思った事は一度もないのに。




「シルベチカ。君との婚約を破棄したい」


 ディシャール王国の王太子、ユリウス・アラウンド・ランフォールドがそう言って、10年ほど婚約していた12公爵家が一つ、マスティアート家の末の息女、シルベチカとの婚約を破棄したのは今から1年ほど前のことだ。


 2人が婚約したのは、シルベチカが7歳、ユリウスが9歳の春の事だ。

 9歳という若さでありながら、王妃譲りの美しい顔と国王譲りの金色の髪に美しいサファイヤの瞳を持ったユリウスは、幼い頃から美しい王子様として有名だった。

 人見知りも物怖じもせず、話しかければ誰にでもくるくると愛らしく笑う王子は、その警戒心のなさに眉を顰める者はいたものの、概ね貴族からも民からも愛されていた。


 その婚約者に選ばれたのが、7歳とユリウスよりさらに幼いシルベチカ・ミオソティス・マスティアートだった。

 薄いけれども確かな青い髪をふわふわとさせ、その瞳は真白にほんのりときらめく光る金が宿ったような不思議な色をもち、にっこりと微笑む姿はまるで精霊の御遣いのようだった。

 シルベチカには上に年の離れた2人の姉と、ユリウスと同い年の跡取りになる兄がおり、一番上の姉は国内の有名貴族の婚約者で、下の姉は隣国の王族の1人と婚約を結んでおり、ディシャール王国とそれらの貴族の橋渡しになる者として、一番適当であったのがシルベチカだった。

 またマスティアート家は代々、癒しの魔力をその身に秘め、シルベチカもまた見事な癒し手の持ち主であった。未来の王妃に癒し手の姫君と言う構図は、国民からの信頼を得るのに最適である。

 ……という、大人の事情でしかない理由で結ばれた婚約だったが、2人の仲はそんな事情をよそに良好だった。


 そんなシルベチカは決しておとなしい少女ではなく、ユリウスが誘えば馬にも喜んで乗ったし、公爵家に訪ねれば木の上から出迎えて、うっかり落ちたことがあるほど、よく言えば明るい、悪く言うなら少々お転婆が過ぎる少女だった。


「殿下聞いてくださいな。家庭教師の先生が「淑女は馬に乗って野山を駆けたりしません」って言うんですよ! とっても酷い偏見だと思いませんか? 王妃教育ってそういうのばっかりなので、とっても雁字搦めで大変なんです! だから、今度ぜひ「馬に乗りましょう」って殿下が誘ってくださいな! 先生も、殿下が誘ってくれたなら眉を顰めながら送り出してくれるに違いないですもの」


 幼さから、不遜にもユリウスにそうおねだりするシルベチカの事を、ユリウスはただ単純に好ましいと思っていた。

 成長して、多少の慎み深さは覚えてもユリウスと2人きりになればぺろりと舌を出して本音を示してくれる令嬢を、ユリウスは彼女のほかに知らなかった。




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