94.これは涙に弱いってより、鬱陶しさが勝っているんだなぁ
「ってことでいいんだよな、マリア」
「ええそうよ」
マリアさんはその問いかけに清々しいほどの微笑みで答えた。
相変わらず言い逃れする気はさらさらないらしい。
「だってこのまま何の障害もなく終わってしまったらつまらないじゃない」
面白いかつまらないかで判断するのはいかがなものだろう。
「だからお前はこいつに魔法を使ったのか」
「ええ」
こいつと示された私を見て、マリアさんはまたニッコリ笑った。
「領主の花嫁なんてなりたくないって言っていたから可哀想になっちゃって」
「それでその嫌だって感情を増幅させたんだね」
そう言ってベルさんがこちらを向いた。
そうなんです、そうなんですよ。悪いのは私じゃなくて彼女なんです。
「お前今、自分が悪いんじゃないって顔してるけど、お前がそんな感情を抱かなければこんな事態になってないんだからな」
うっ、ごもっともで。
「ごめんなさい」
相変わらず余計なことが言えない私は、この件になると涙をぽろぽろ流しながら謝罪の言葉を口にする。
「ああっ鬱陶しい!」
その反応にレイズ様は声をあげた。
いや分かってるよ! 私だって鬱陶しいと思ってるよ! やりにくいよね、ごめんね!
「ごめんなさい」
ほらでも、謝罪と涙しか出ないからさ!
「……っ」
レイズ様は目頭に手を当ててそっぽを向いてしまった。
ああ、手に取るようにイライラしてるのが分かる。
「ふふっ」
その姿を見て、マリアさんはくすくすと笑っていた。
「とにかくっ、マリアの思う壺とか俺は絶対嫌だからな!」
「それはそうだけど、だからってどうするのさ? ルセリナちゃんは終始こんな感じだし」
「花嫁にはなりたくないです……」
また私の口から勝手に余計な言葉が出てしまった。
「ほらぁ」
もう完全に手詰まりだ。
ベルさんがお手上げポーズを取ってレイズ様に同意を求めた。大変だよね、この人の機嫌取るの。
「無理矢理にでも出す」
「えっ」
えっ。
「ちょっと待ってレイズ。今、無理矢理にでも出すって言った? まさかこの状態のルセリナちゃんをこの後の審査にも出場させるってこと?」
「そうだよ」
本気か。
だって今の私ってこれだよ。そんな言葉聞いたらすぐにでも否定の言葉がほら。
「花嫁になりたくな……」
「だ、ま、れ」
「ふぐっ」
痛い痛い。ぽっぺをつままれて強制的に発言を止められた。暴力反対。
「いいか、三流メイド。お前のせいでこうなったんだから、自分の失敗は自分で責任取れ」
そんな事言われましても。
「そんなの無……ふぐぐっ」
「お前は何も言わなくていい。これは主人からの命令だ。拒否権は無い」
なんだこいつは。鬼か。悪魔か。
「いいよな、ベル」
「ま、まあ、ルセリナちゃんがいいならいいけど」
レイズ様は納得したように一つ頷くと、ポケットからハンカチを取り出した。
「じゃあ問題ないな」
そう言って私の顔をやや強引に拭い、自分の手元も丁寧に拭った。
これで化粧が落ちないのだから、この世界の化粧品は素晴らしいと思った。




