90.本日のうたた寝~隣に黒幕を添えて~
「で、この後はどうするつもりだよ」
「……」
「その話なんだけど、俺の正体がばれちゃった事は公に出来ないからこのままー……」
「……」
お分かりいただけただろうか。
私のことは完全放置。
お飾りの花嫁候補など置き去りにして、仲良し二人組の間で早速次の話が進んでいる。
もう私の存在とかいいから、どっちかが女装でもなんでもして君達二人で出ちゃいなよ。うんうんそれがいい。私その辺で座って待ってるからさ。
「はぁ」
レイズ様とベルさんの作戦会議が盛り上がりを見せるのを横目に、私はひっそりと部屋の隅にある椅子に腰かけていた。
今日一日の疲れがどっと出たような気がして、ずっしりと壁にもたれかかる。
「家に帰って昼寝したい」
とてもじゃないが、やる気が起きない。
いきいきしている二人を見るとその気持ちがより一層深まっていく。
「結局、領主がどうあれ花嫁になりたくなかったのよね」
隣から女性の声がする。
「そりゃまあ当然」
私は言葉を返す。
花嫁になるのもそうだけど、それを除外してもこれ以上面倒事に巻き込まれたくはなかった。
私は思ったままを言葉にし、目を閉じた。これなら本当に眠れそうだ。
「可哀想ね」
「全くですよ」
そう相槌を打ちつつ、私はうっすらと目を開けた。
ぼんやりとした視界には楽しそうにしている男性二人組が映る。本当に仲良しだな、君ら。
「元はといえばマリアさんが変な魔法使うからですよ」
ふと、こうなった原因が彼女であることを思い出した私は、隣から聞こえる声の主に恨み言を付け加えた。
「あら」
じとりと向けた私の視線なんてなんのその。
全ての元凶ことマリアさん、彼女はただ首をかしげて静かに笑みを浮かべていた。
はあ、全くどいつもこいつも。
「あんな対処不可能な魔法を使うから、結果として今回で花嫁選びの開催を終了させるなんて方向性になっちゃったんですからね」
これが相手の感情を増幅させるなんて微妙なものではなく、相手を服従させるとかそのくらい露骨なものだったら危険人物として明確に対処出来たのに。
「それはごめんなさい」
本当に悪いと思っているのか分からない。ただ上品な謝罪がその口から告げられた。
「ま、今更謝罪されてもね」
どうにかなるって話ではないけどさ。どうせレイズ様とベルさんの悪だくみはもう止められそうにもないし。
「あとはもう適当に二人に付き合って……」
「でもそれって、本当に必要なのかしら?」
「え?」
他愛のない一言だった。
「私思ったの、本当にルセリナさんがそこまでする必要あるのかなって」
本当に必要か、だって?
「……」
その一言に、何故か私は背中を氷でさすられているような嫌なものを感じた。




