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89/151

89.はいはい、シンデレラストーリーね、はいはい。


「領主はな、コイツだよ」


 その真実はあっさりと、クイズの答えは3番でしたっていうみたいに、何の含みも面白味も感動もないままに、私の目の前に提示された。


「はーい、領主でーす」

「なっ」


 おいそこ、ふざけるなよ。言っていい冗談と駄目な冗談があるってことを理解してくれ。冗談はそのダブルなピースサインだけでいいんだよ。なのにベルさん、君、領主って。

 内心ではまくしたてるように怒涛のツッコミがこみ上げるが、声として生み出すことが出来ない。

 完全に体が思考に追いつけていない。


「信じられないかもしれないけど、事実だぞ」

「いっ」


 いやいやいやいや、信じられるかーい!


「……」


 脳内の私が盛大にツッコミを入れている。

 ベルさん領主なの? そんな適当な感じなのに。単なる悪友ポジだったじゃない。


「……」


 しかしツッコミを入れる脳内の私の隣で、もう一人、冷静になっている脳内の私がブツブツと何かを呟いていた。


「……」


 うんうん、あるよねそういうの。一般市民だと思ったら若様でしたみたいな、ご老人だと思ったら黄門様でしたみたいな展開がさ。

 悲劇のヒロインがいて、悪役令息がいて、魔法があって、そんなご都合主義みたいな塊ならさ、一つくらい正体を偽った大どんでん返しのような身分の人間が現れてもおかしくないよね。


 否定派と肯定派、完全に脳内が二極化を始めている。このままでは、危険だ。異世界転生メイドという肩書に多重人格という設定まで盛り込まれてしまう。そんなの、満腹を通り越して消化不良を起こしてしまう。

 なんとかしなければ。


「な、何かのご冗談では?」


 とりあえず、夢か幻か冗談か聞き間違いか、無難なオチを期待してみる。


「そんな意味の無い冗談、俺がお前に言うか」


 言わないねぇ。大体、私に対して雑談すらしないもんねぇ、貴方は。

 残念ながら気休めなオチは待っていなかった。


「で」


 じろりと視線がこちらに動く。うっ、怖い。


「年齢の問題さえクリアすればいいんだったよな、お前は」


 当然のように私の現実逃避の逃げ道をふさぎ始めるレイズ様。

 そうだね私言ったもんねぇ。最大のネックは年齢だって。


「……じ、実は、ベルさんが超若作りのご高齢という可能性は?」

 

 一応確認してみる。


「安心しろ、こいつも俺達と同じ20歳だよ」

「どうもー正真正銘20歳です」


 ですよね!

 私にとって都合のいい展開なんて無かった。同じ歳ですかふーんそう、よかったね! 私たちみんな同級生!


「そんな訳で、花嫁になってもらえる? ルセリナちゃん」

「まあお前に今更断る権利なんて一つもないけどな」

「……」


 大人げなくダブルピースをカニの鋏のようにちょきちょきしている男と、仕掛けた罠に相手が見事にはまって心の底から満足そうにしている男。

 二つの地獄に囲まれて、このどうしようもない私の感情は、見事に行き場を失ってしまった。


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