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84.信頼関係がないとアイコンタクトすらままならない


 いやはや、まさかベルさんの口からマリアさんが花嫁になることを否定する言葉が出るとは思わなった。


「そう思うだろ、レイズ」

「そうだな」

 

 思わずポカンとしてしまった私の横で、ベルさんとレイズ様が短い言葉を交わす。

 この会話だけじゃレイズ様が本当にそう思っているのかは分からないけど、それ以上レイズ様は何も言葉を返さなかった。


「……じゃあどうするの」


 表情は崩さない。あくまでも落ち着いた様子のマリアさん。

 チラリと視線だけをベルさんに向けると無言でその答えを待った。


「そうだなぁ」


 彼女の問いかけに、のらりくらり、ベルさんは顎に手を当てながら悩んだような素振りを見せる。でも、あんまり悩んでないように見えるのは私の気のせいだろうか。


「あー、うん、そうだ。こうしよう!」

「?」


 ポンと両掌を合わせると彼は小気味良く言葉を発した。


「今回で花嫁選びはおしまい! ここで選ばれた花嫁が、永遠の花嫁ってことで領主に嫁ぐ。これでどうかな?」

「……」

「これでどうかなと言われましても」


 何故かポーズ決めくるりと半回転した男は、こちらに向かって突き出した人差し指をピタリと止めた。人を指差してはいけないって学校で習わなかったのかな、この人。


「私には何の判断も出来ないですし……って、そもそもそんなルール変更受け入れてもらえるわけないじゃないですか」


 これまでのこの街の慣わしを根本からぶち壊す話なんだぞ。そんなの無理に決まってるじゃないか。


「えーそうかなぁ」


 そうかなぁもこうかなぁもない。

 相変わらず飄々としたベルさんは、そう言って、フラフラと芯の無いスパゲッティのようにこちらに歩み寄ってきた。


「いや、だから」


 近づいてきても、私が言うことは変わらないんだって。

 呆れてもう一度同じことを言おうとした私の耳元で、私だけに聞こえるようにベルさんは小さく囁いた。


「大丈夫だよ。元々俺はこのイベントを壊したいって言ってたでしょ。その為の策がね、あるんだよ」

「あ」


 私は顔を上げた。ボサッとした前髪の隙間から相手の瞳が覗く。それはまるで私の反応を楽しむようだった。


「なるほど……」


 自然と声がもれる。

 確かに最初の時、このイベントを壊したいとか言ってたっけな。策まで用意してたのか。


「……」


 チラッと視線をレイズ様の方に送った。

 ベルさんと友達のこの男なら、案外彼の作戦についても既に知っていたりするのかもしれない。


「ふぁ」


ーーあ、うん、はい。興味なさそうですね。


 期待外れの反応もいいところだ。

 ベッドがあれば昼寝でもしそうな欠伸をして、レイズ様は目を擦っていた。

 アイコンタクトは大失敗。つくづく思うけど、この人と私、本当に相性悪いな。


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