82.解答編らしきもの
感情を増幅させる魔法。
うーん、これまたマニアックな魔法を習得したもので。私も人のことは言えないけど。どうせ増やせるなら感情よりお金がいい。そうすれば今の立場からだって即おさらばするのに。
「感情を増幅させる魔法?」
ああいけない、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。
レイズ様の怪訝そうな声で私は我に返った。
「ええ」
コツコツと足音は静かにレイズ様に歩み寄る。
マリアさんはゆっくりとレイズ様に告げた。犯人が真実を告げる解答編が始まっていたようだ。
「最初の女性は控室でとてもイライラしていたわ」
あの時の出来事を思い出すようにマリアさんは目を閉じた。
「きっと緊張していたのね。私にぶつかった時も怒りが収まらず、喚き散らした」
あの時の控室、それは確かに散々なものだった。彼女だけじゃない、他の人だってピリピリと嫌な空気を放っていた。
その中で、そこにいた参加者のたまたま一人が、文字通りマリアさんと衝突してしまったのだ。私から見れば相手の不注意によるもの。マリアさんに非はなかった。
けれど面白くなかったのだろう。それをマリアさんのせいにして相手は散々に非難した。
「だからね、その怒りを少しばかり増幅させたの」
なるほど。
思い浮かぶのはステージ上で異様に怒りながら暴言を吐く女性の姿。
「それであんなことに……」
ベルさんが静かに驚きの言葉を漏らす。
「そういうこと」
そこにはマリアさんから正解の合図が加えられた。それを聞き確信を得たようにベルさんは言葉を続ける。
「まあ確かにあれはどう見てもおかしかったもんね。花嫁候補とあろう者が、審査の結果ならともかく、待ち時間が遅いからって理由で審査員に突っかかっていくんだもん」
「ですよね」
いくらこの世界が、異世界転生してやってきた魔法の使えるトンデモファンタジー時空だったとしても、あんな常識に欠けるトンデモ行動は許容出来ないのである。
「料理審査も同じですよね。この場合、増幅させたのは怒りじゃなくて、食べたいっていう感情」
「正解」
「だからあの時は、審査員に食べさせるはずだった料理を自分で食べちゃったのか」
関心して頷くベルさんを見てマリアさんは少しだけ笑みを浮かべた。
「だから私に『料理のコツは自分が食べたくなるものを作ること』だなんて言ったんですね」
多分このアドバイスをした頃、既にマリアさんはターゲットに魔法をかけた後だったのだろう。
まるでミステリー小説の犯人のように、見えないところで立ちまわっている彼女の行動に少しだけ恐怖を感じた。
「いやあそんな魔法もあるんだねぇ、レイズ知ってたの?」
「知るわけないだろ」
呑気に笑うベルさんの顔を鬱陶しそうな表情で見たレイズ様は、無愛想にマリアさんに尋ねる。
「それで、お前はこれからどうするんだ」




