75.その優しさには疑いの目を向けよ
これは夢か幻か?
ダンスパートナーとはぐれてしまい、取り残された私を助けてくれたのは、なんとあのレイズ様なのでした。
あーいや、助けてくれたとは限らないか。
「あのーレイズ様」
「……」
「もしかして助けてくれました?」
でも一応聞いてみる。
別にいい返事を期待しているわけじゃない。
でも万が一ってこともあるからね。
百万分の一くらいの可能性で困っている人間を助けようなんて気持ちが芽生えてるかもしれない。
ま、どうせ実際には助けるの「た」の字も出て来ないんだろうけど。
「そうだな」
ほらね。
今「そうだな」って助けるつもりなんてさらさら無……
「……」
「……」
「えっ!?」
「あ、おい馬鹿」
「ぐあっ」
予想外の言葉に気を取られたあまり足がもつれた。
あ、終わった。
そう思った瞬間、体が絶妙なバランスで引き寄せられるのが分かった。
「な、ナイスなフォローです、レイズ様」
「何やってんだよ」
視線を持ち上げると、明らかに不機嫌な表情のレイズ様が目に映った。
見ない事にしよう。
目を逸らし、接近しすぎてしまった体から距離をおいた。
「や、やあ、だって」
下手に話題を逸らしたら、今度こそ手を離されてしまうかもしれない。
だから正直に聞いた。
「助けてくれたんですか、私を?」
あの他人をゴミのように扱う、クソみたいな人間性のレイズ様が?
「じゃなきゃこの状況は何になるんだよ」
「夢……とか?」
ダンス会場で恥をかきたくないがために、私の脳内が生み出した妄想という名の夢。無いとも言い切れない。
「はぁ」
わあ、深いため息ですね。
「……じゃあ夢ならここから一人でなんとかしろよ」
「!?」
「じゃ」
ちょ、ちょっと! え、何、本気!?
「あ、あ、あ、待ってくださぁい」
「離せ」
離すなんてとんでもない。やっと掴んだ藁だってのに。
掴んだ指により一層の力を込め、慌てて言葉を返した。
「わっ、わーやだな、レイズ様ったら。冗談キツイんですから。夢だなんてウソウソ。慈悲深くて優しさ無限大のレイズ様ですから自然な成り行きで助けてくれただけですよね。知ってます、知ってます。わぁい、嬉しいな、ありがとぉございまぁす」
とりあえず売れるだけ媚売っとけ。
「ワザとらしい」
「っ……いやいや、ほんと、本当に助けられたと思ってますよ。普通に感謝してますから」
面倒くさいなぁもう。
「感謝の言葉は?」
「やー、だからそれはさっき言ったじゃないですか」
「じゃあ後は一人で……」
「ありがとうございました!」
「よろしい」
うるせえ。
「まあ俺も、色々あってパートナーがいなかっただけなんだけどな」
こいつ、この野郎!!!!!!
崩れる事なく笑みを浮かべたその顔はやっぱり綺麗に整っていて、なんとも腹立たしい事この上ないのだった。




