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69.普通のことを言われた方が逆に動揺してしまう

 レイズ様とマリアさんが出会ったのは潰れかけた孤児院だったそうだ。

 お世辞にも綺麗とは言えないその場所で、歳不相応に子供たちの世話をする。そんな彼女に声をかけたらしい。


「……ふっ」


 レイズ様ってあれだよな、薄幸系の美少女とか美人に弱いよな、やっぱり。この手の俺様気質な人はそういうタイプに弱いって展開、何回も漫画で見た。


「うわ、こいつまた笑ってるよ」

「お気になさらず」

「気になるわ」


 私が薄幸オーラを漂わせていても、少しは優しくしてくれるんだろうか。

 いや、どちらかというと、ここぞとばかりに後ろから蹴りを入れて崖から突き落としてきそうだな。


「そういえば、次の審査ってダンスですよね」


 三つ目の審査はダンス審査。みんながそれぞれ自分を推薦してくれたパートナーと社交的なダンスを行うあれだ。

 もちろん今回も結婚相手になる領主ことコルトン様は見学。

 ドレス審査は仕方ないとして、さっきの料理審査でもコルトン様は食すことなく見学していた。


「しっかし、例のコルトン様はどの審査も見てるだけ。つまらなくないんですかね?」


 私だったらうたた寝してる。


「仕方ないだろ、ご高齢なんだから」


 まあそれもそうか。

 料理はそんなに食べられないし、ダンスだって下手に体を動かして具合を悪くされても困る。でも。


「そんなご高齢のお方なのに、あえて結婚に力を注ぐとは、なんというかまあ……いくつになっても男の人はそういうのが好きなんですかねぇ」

「……」


 おや。

 隣を見ると、いつもなら間髪入れず言い返してくる男が、静かに動きを止めていた。

 どうしたのかな。

 その動きに合わせて、私もとりあえず足を止めた。


「レイズ様、どうしました?」

「それ、性別関係ないだろ」

「え?」


 普通に返って来た言葉。それがあまりにもレイズ様らしくなくて、私は返す言葉に詰まった。


「今まで連れ添っていた相手がいなくなって寂しい。だから誰でもいい、そばにいたい。そう考えることはおかしいことか?」

「おか……しくないです」

「性別関係あるか?」

「……ないです」


 悔しいけどさっきの発言は失言だったと認めざる負えない。

 レイズ様の背中が遠ざかっていく。


「おい、ぼーっとしてるんだよ。早く行くぞ」


 その声があまりにも遠く感じた。


「ったく」


 呆れられても仕方がない。


「なんで普段は馬鹿みたいに自分に自信があるのに、変なところでアホな顔さらすかな」


 ほっといてくれ。


「ほら行くぞ。こんなところで不格好に終わりでいいのか」


 そう言って手を引くわけでも何をするわけでもなく、その男はただそこで待っていた。

 それはなんだか、この後の審査というより自分達の境遇を言われているような気がした。


 ああ、そうだ。私も行かなければ。


「……いやです」


 私はゆっくりと足を動かし始めた。


「まあ街総出でこんなイベントをやるのは多少やりすぎだろうけどな」


 微かに先を歩くレイズ様から小声でそう聞こえた気がした。

 そうだよ、そこは絶対おかしいよ、うん。

 

 私は何故か少しだけ元気が出た。


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