61.愛よりも大事なものがこちらです
『それでは次の審査に参りましょう。料理審査です!』
一体どれだけの財力を使ったのだろう。先ほどドレス審査を行っていた会場には、いくつもの調理台や流し場が設置されていた。さすが魔法の使える世界。これぞご都合主義の力だ。もしかしたらこの勢いで地面からスモークが炊き上がり、床からは料理の鉄人なるものが出てくるのかもしれない。
「ねえ、知ってる?」
「はい?」
「料理が美味しくなるコツは、たくさんの愛情と自分が食べたくなるものを作ることなんですって」
「へえ」
――じゃあ愛情が皆無の私の料理がクソ不味いのは仕方がないな。
隣を見るとマリアさんの長い黒髪はいつの間にか一つに束ねられていた。気合は十分なようで。
「この審査も頑張りましょ」
親しみが込められた激励。うーん、なんか歯がゆいな。だってシュタイン先輩からのいいつけとはいえ、最終的にはマリアさんを敗退させないといけないし。
私は先輩のように心が鋼鉄で出来てる人間ではないのだ。
変に仲間意識を持たれるとやりにくし、なるべく関わらないようにしよう。
「ええ、まあ、ほどほどに」
ふわっとした適当な短い返事。うん、まあこんなもんだろう。さて、自分の調理台に行きますか。
『料理の時間は一時間、どうぞお好きな料理を作ってください。それでは、レッツクッキング!』
バアアアンという激しい銅鑼の音。相変わらずスタッフ達はノリノリだな。
「さてと」
食材置き場に並べられたお肉、お魚、お野菜、フルーツ、その他もろもろ。さすが領主に出すものだけあって新鮮でどれも輝きが違う。高いんだろうな。こんな場じゃなかったら、私の魔法でお持ち帰りするのに。
「これと、これがいいかしら」
隣の人、目つきが違う。食材を一つ一つ吟味して選んでるみたい。私から見たらどれも同じように見えるけどな。
さて私はどうしようか。とりあえずこの辺の人参とジャガイモと玉ねぎと……おっ、この肉、いつもは高くて買えないやつだ。いくらだったかな、確か100g500,000マニー……
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~観覧席~
「……ベル」
「ん? なんだい」
「あいつの手にしてる食材」
「食材? それがどうかした?」
「あれ、もしかしてカレーの具じゃないか」
食材運搬用のかごに入れられていく人参、ジャガイモ、玉ねぎ、そして肉。
「さてね、どうだろう。肉じゃがかもしれないだろう?」
「……いや、カレーだ。あいつ、カレーのルー入れやがった」
庶民のご家庭でお馴染み、箱入りのカレールーがかごに追加される。
「そこはせめて、オリジナルブレンドのスパイスとか、なんかあるだろそういうの、なあ」
「ふふっ、領主相手にカレールー。うん、面白いねぇ」
「……あの馬鹿」
頭を抱えて俯くレイズ。
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美味しい料理を作るコツ?
愛情なんていらないいらない。
必要なのは、高級食材と料理人の知恵が編み出した結晶、そうカレーのルーである。




