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37.愛の無い街アロマスク


 そうかそうか、遂に私も結婚しちゃうかー。盛大な式にしようなー。ご祝儀どれくらい貰えるかなー。


「ってちょっと待った」

「ん? どうしたのルセリナちゃん」


 危ない危ない。唐突な物語の運びに自分の脳内が完全にバグを生み出していた。完全に結婚する体での思考が出来上がっていた。


「あのさ、花嫁候補って、何?」

「あれ、今更?」


 そう思われるのも無理はない。コルトン様とやらに出会ってからもう10分以上が過ぎている。今はさっきの場を離れ、パーティ会場のバルコニーに出ていた。


「いや、あまりにも唐突過ぎて」


 脳内がフリーズしてたのだ。そんでもって今、ようやく我に返った。


「そうだったんだ。俺てっきり肝が据わってるんだとばかり。喫茶店でもお一人様貫いてたし」


 それはこの街のルールを知らなかっただけだ。

 

「そういう性格の子なんだなって思ってた」

「違います」


 とても気の弱い優しい子です。


「で、花嫁候補とは」

「ああ、それね」


 ヒューベルことベルさんは手すりに背を預けながら大きく後ろに伸びをした。青黒い癖っ毛が風になびく。

 どうでもいいけど服、汚れるぞ。


「この街では月に一回コルトン様の花嫁を探すのが決まりになっててさ」

「へぇ、月一……月一!?」


 月一回ってなんだよ。スーパーの特売日じゃないんだぞ。


「あーうん、最初は驚くよね。でもそれがこの恋愛の街アロマスクのきまり。いつでもどこでも自由に恋愛が出来る、推奨する。そしてその中で、この女性が素晴らしいと思ったら花嫁として推薦するんだ」

「な」


 なんて下品な街なんだ。

 女性を品定めして最終的にはお上に献上。恋愛の街とか言いつつ、愛が全っ然見当たらない。


「な、中には彼女を推薦したくない彼氏だっているんじゃないですか?」

「いるだろうね。でも推薦しないなんて事はあまりない」

「なんでですか」


 好きな人が他人の結婚相手になるなんて嫌だろ、絶対。


「それを差し引いてもあり余るほどのメリットがあるからね」

「メリット」

「上級市民権だよ。花嫁に選ばれた女性、そしてそれを推薦した男性にはその権利が与えられる。これがあれば、この国にいる限り一生、お金やそれ以外の面においても困ることはない。無敵のレアアイテムさ」


 そりゃ確かに強い。


「それをたった一か月、花嫁として生活を共にするだけで貰えちゃうんだからお得だよね」

「一か月?」

「そりゃそうさ。なんせ花嫁は月一で選ばれるからね。一か月我慢すれば、翌月には上級市民として本来の相手と一生安定した生活が送れるってわけだ」

「なるほど」


 偽りでもなんでも一度花嫁にさえなれば、ある意味幸せになれるのか。でもそれって。


「愛が無いですね」

「……」

「確かにそれはとても美味しい話ではありますけど、カップルというからには一度は相手を好きになった仲なんでしょう? それなのにその相手を第三者に紹介するというのが、私はどうにも受け入れられませんね」

 

 自分にはそこまで深く愛を知る経験もないし、語る資格も無いかもしれないけど、でもやっぱりなんかそんなの嫌だ。


「……よかった」

「?」


 今、「よかった」って言った?


「一体何がよか……うわっ!?」


 急に前のめり。いきなり体を起こしたかと思うと、突然私の両腕につかみかかった。胡散臭い感じの赤い瞳がこちらを覗いて……笑ってる?


「やっぱり俺の目に狂いは無かったよ!」

「や、言ってる意味がちょっと分からないんですけど」


 あとこの手離して欲しい。見る人によっちゃ事案だぞ。


「俺もね、そう思ってたんだ! だから協力して欲しい。一緒にこの国のルールをぶち壊そう」


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