35.愛はお金で買えないなんて嘘だね
「900,000マニーのお支払いになります」
崩さない営業スマイル。崩される私のお財布。
こんな事になるならお茶の誘いに乗っとけばよかった。茶の一杯や二杯、このぼったくり喫茶に比べたら屁でも無かっただろうよ。
こうなりゃもう、罵声覚悟で皿洗いでもなんでもやるしかない。
「すみません。実は今、手持ちがこれしかなくて」
「あ、いたいたーお金が恋愛対象のお姉さん」
ああさっきの軽そうなお兄さん。またやって来たのか君は。残念ながら一足遅かった。
すまんな、今それどころじゃないんだよ。
「お金なら恋愛対象なんでしょ?」
「あーうん、そうだね。ちなみに今はそのお金を巡って修羅場が起こってるんだよ」
私が悲しい別れを告げることになりそうだけどね。
「ふーんそっか。じゃあ、これでおっけー?」
ぱさぱさ
「えーあーうん、そういうのは後で聞くからね……んっ!?」
ぱさぱさっ?
あれ、ちょっと待って。このカウンターに重ねられたのって札束じゃない? 軽く見ても3束くらいあるんだけど。見間違いじゃないよね。
「えー……っと、これは?」
「これは? って、見りゃ分かるじゃん。お金」
「お金。これ3,000,000マニーくらいない?」
「あるよ」
「そんな、あるよって」
サラッと言っていいお金の額じゃないでしょ。ほら、店員さんだって凄くポカンって顔してる。
「これだけあればお茶して貰える? あ、でもこの時間だったらディナーがいいかな」
いや、うん。今はそんな話をしてるんじゃないんだよ。
「本当にこれ貰っていいの?」
「いいよー」
「いいんだ……」
説明しよう。私、ルセリナは心が完全に傾いている。
あんなに人を疑ってかかるタイプだと自分で語っていたくせに、今ものすごく心が傾いている。だってさ、こんな風に現金ちらつかせたりされたら、信念も何も関係なくなるでしょ。
「所詮お前はこの程度の人間だな」って心の中のレイズ様が鼻で笑った気がしたけど今は気にしない。
ああ、私は所詮そういう人間だとも。
「お姉さん。もし良かったら俺と一緒にディナーどう?」
「行きます、行かせてください」
「わーい。やったー」
なんでそんな羽振りのいい人間が私に話しかけてきたかは知らないけれど、それはそれ、これはこれ。きっと石油王の息子とかそんなんだろう。細かいことは気にするな。お金があり余ってるからこそ、私のような変な人に物珍しさで声をかけてきた。珍味みたなものだった。そう思うことにしよう。
「それじゃ、とっておきの料理をご馳走するよ!」
相変わらずレイズ様らしき人影はどこにも見当たらない。
若干不安はあるけれど、この人そんなに強そうな見た目じゃないし、いざとなったら逃げ出せばいいか。




