29.多くを語らない男はかっこいい……訳ない。言え、最初から。
人生、別れなんてのは意外とあっさりしているものだ。
「もうここに用はない。さっさと出て行くぞ」
「はい」
たとえそれが結婚相手(詐欺)だったとしても。
「あら、もう行っちゃうのね」
と言いつつ玄関の扉は彼女によって開かれていた。悲しいなあ、一夜を共にした仲だってのに。
そんな戯言は相手にされず、終わりの時は過ぎていく。
彼女の前を通り過ぎ、私達は再び外へと歩き出し――
「うぉあ」
今いい感じにモノローグで締めてたんだけど。
どむっという壁に当たったような軽い衝撃がその全てをぶち壊してくれた。
「ちょっとレイズ様、何立ち止まって……」
いきなり止まると危ないでしょうに。鼻が潰れたらどうしてくれるのかと。
「忘れてた」
「は、何を。替えのパンツですか?」
「やぁね。パンツなんて次の街で新しいの買いなさいよ」
「……」
チャキ。金属が擦れるような音がした。おや、それはもしや剣。
「!? な、なーんて、冗談ですよ。やーだなぁそんな風に構えちゃって……え、待って、待って下さいよ」
「二人とも動くなよ」
「ちょ」
それ攻撃する時に見せそうなモーションに見えるんだけど。え、斬るの。本気? 冗談でしょ。
「は、やだ、何よそれ――」
ほら、メイちゃんもそう言ってますしその剣は収め……
「きゃっ」
「うぎゃ」
言葉が言葉として生まれるよりも早く、その剣はあっさりと振りぬかれた。
ルセリナ死亡、享年20歳。
チャラリ~タラララ~(自作バッドエンド音)
ああ私よ、死んでしまうとは情けない。次に生まれ変わるときは、どうかもっと豪遊できる美人でチートなお姫様でありますように。
ん……いや、待てよ。手足が動く。生きてるなこれ。
「……」
ゆっくりと目を開けた。
瞳にはメイちゃんが狼狽している姿が映った。何故か両手を広げて。
「何よ、何も無かったじゃない」
まあとりあえずこっちも無事だったようだ。
「単なる脅し? バカバカしい。どうせ私に一杯食わされて面白くなかったんでしょ。脅しなんて私には通用しな……っお母さん!?」
え、どうした!? 強気だったメイちゃんが急に慌てだしたぞ。お母さん? 後ろのお母さんがどうしたって…………お母さん!?
縛られていただけだったはずのメイちゃんのお母さんが、力なくぐったりとうなだれていた。
「お母さん!」
まさか、遂にやっちまったかレイズ様。染めちまったか、俺という名の赤い色に。
「レイズ様、こりゃあイカンですよ」
「何がだ」
「何がってそりゃあ」
「う、うん……メイ」
生きてた。ちょっと朦朧とした感じだけど、一応、命は失われていなかった。犯罪者にならなくてよかったね。
よく見ると、彼女を縛っていた縄だけが、パラパラと細切れになって地面に散らばっていた。
「よかった、ちゃんと守れてた。私、一人になっちゃうかと思った」
……ああそうか。メイちゃんが両手を広げた立ってた理由。あれ、お母さんを守ろうとしてたんだ。
まあ多分、実際のところは守ったんじゃなくて、この人が『そうした』んだろうけど。
「何か言いたそうだな」
「いえ、別に。随分器用だなあと思いまして」
「お前よりはな」
「おや、では是非今度メイド役を交換し……」
「するか」
交渉失敗。




