143.理想を現実にするには主人公力が足りない
「で、辿り着いたのがここってわけですね」
歩くこと数分。
私達の目的地としていた洞窟は、元居た場所からそれほど離れてはいなかった。
あれだけ冒険感を出していたのがちょっと恥ずかしいくらいに。まあでも、すぐ見つかったんだからいいのかな。
「もーしもーし、レイズさーまー?」
私は仄暗い洞窟の奥に向かって呼びかけた。
「……うん、返事は無し、と」
反響するのは私の声だけ、レイズ様らしき男性の声もお嬢様らしき女性の声もその先からは一切聞こえては来なかった。
ちょっとは期待したんだけどな。
私は少しだけ立ち止まって、ぽっかりと空いた先の見えない空洞を見つめた。
「予想外でしたかな?」
動かなくなった私の背に老人のしゃがれた声がかかる。
「ええ、まあ少し」
そう言って、後ろをついて歩くヘッセンさんの言葉を私は肯定した。
「それよりも」
私は彼の手元を見つめた。
両手は私に拘束された時のまま、縄で縛られている。彼がモンスターだったことも踏まえて、一応、拘束だけは続けていた。
「すみません、その腕。不便ですよね」
「大丈夫ですよ、お気になさらず」
ヘッセンさんはそう言ってのほほんとした笑みを浮かべた。
「……」
レイズ様が居ればこんなことする必要は無かっただろう。彼の剣の腕前だけは信頼出来る。
私の魔法じゃ、もしもの時の確実性に欠ける。
「……そう言う意味ではやっぱりちょっと予想外だったかも」
じめっとした環境で肌に湿気がまとわりつく。
意外と涼しくない洞窟の中を進みながら私は呟いた。
「その方、そんなにお強い方なんですか?」
「たぶん。一般的には」
私は少し曖昧な感覚を含ませながら答えた。
だって、その事実を知ったのもほんの数日前だから。
追放されて、色々なトラブルに巻き込まれて、なんだかんだで知ってしまった事実。
じゃなきゃ一生経っても口だけ達者な性格の悪い男のままだったんだけどなあ。
「負け確定な悪役ポジションの令息様にそんなオプション要らないと思うんですけどねぇ」
「負け? 悪役ポジ……ション? ですか?」
ヘッセンさんはわけも分からずに首を傾げていた。
「要するに往生際が悪いって事です」
だからこの洞窟に来た時も、私が捜索なんかする必要全然無くて、既に悪の元凶を退治したレイズ様が「遅いぞ!」なんて文句を言いながら入り口で待ってるパターンもあるって期待したんだけどな。
最奥部。
「遅いわ」
まるで私の心を読み取ったみたいに、その言葉を浴びせた相手は君臨していた。




