141.ご要望にお応えしないタイプのメイド
「あっ、でも」
レイズ様が見つかるかもしれない。
そこまで希望を見出しておいて、私は肝心なことに気付いた。
「洞窟の場所が分からないか」
ここは広い森の中。
一時はモンスターとして身を奪われていたご老人に、ここからその場所までの案内をしろというのは難しい話だ。
「ここは一旦捜索隊でも呼んで」
「いえ、分かります!」
「分かるんですか?」
はっきりとした声。
余程自信があるらしい。
彼は顎で自分の上着の辺りを指し示した。
「ここです。私の胸の内ポケット」
地図でも入っているのだろうか。
「……ふむ、じゃあ失礼しますね」
縛られて手を伸ばせない彼の代わりに、私はジャケットをめくり、その内ポケットに手を伸ばした。
「ん、あっこれかな?」
手にすっぽりと収まるような平べったくて丸い何かが手に触れる。私は丁寧にそれは取り出した。
「これって」
コンパス。
彼の懐からは、どこにでもありふれたシンプルな形状のそれが出てきたのであった。
「これで居場所が?」
こんなもので。そう考えてしまった私の表情を察したのだろう。
彼はすぐさま首を縦に振った。
「それはただのコンパスではありません。お嬢様と一緒に行動した場所を示すよう魔法が施された特別なコンパスなのです」
「一緒に行動した、場所?」
私は語尾をあげていた。
だって『お嬢様の場所を示す』ならまだしも『お嬢様と一緒に行動した場所を示す』コンパスだなんて。使い道として今一つピンと来ない。
「えーっと……変わったアイテムですね」
私はそれを不思議な物として認識することにとどめた。
「ふふっ」
よっぽど微妙な顔をしていたのだろう。
私の顔を見て、ご老人は微笑した。
「用途が疑問なのでしょう」
「ええ、まあ」
見通されていたのはちょっと恥ずかしい。
素直にそう答えた私に対し、特段小馬鹿にするでもなく、彼は語り始めた。
「お嬢様は昔から様々な地を探索することが趣味でした。未開の森だったり、美しい浜辺だったり、暗闇の続く谷だったり様々」
「へえ……」
「勿論、野宿などはいたしません。ある程度日が傾いたら屋敷に帰還いたします。すると中には、探索が一日で終わらない事もありましてね、そういう場合、こちらを使って翌日再び同じ場所へ訪れられるようにするのです」
「なるほど」
そう言った意味で『一緒に行動した場所』が必要になる訳か。
しかしまあ、お嬢様と名が付くからには、それなりの身分の方なのだろうけど、そんな人が探索を趣味にしているとは。付き合わされる人間も大変だな。
「従者たるもの、常にご要望にお応え出来てこそですので」
「そりゃあ従者の鑑ですね」
誇らしげに告げる彼の言葉に、私はそう感想を述べた。
――ご要望にお応え出来てこそ、ね。




