140.私だったらここで終わっている
「ああ、なんということでしょう!」
倒れた椅子を押し戻して、元の状態に戻ったご老人は、彼の言う『お嬢様』とやらがここにはいないという事実を知り小さく悲鳴をあげた。
「私もこの土地に来たのが初めてだから断言できないですけど、ここで私が見たのはレイズ様とモンスター、そしてあなただけです」
私は膝を少しだけ曲げ、相手の目線に合わせて答えた。
「で、今はレイズ様、あなた風に言えば私の『ご主人様』が失踪してしまったわけです。この件、何か心当たりは?」
「……」
返事は無い。
従者として相手とはぐれてしまったことが余程こたえたのだろう。静かに首を垂らしていた。
もー仕方ないなぁ。
「しっかりしてください。そんな事でどうするんですか」
私は彼の肩を掴み軽く揺すぶった。
「あなたがこうしている間にも、お嬢様とやらが危険な目に遭っているかもしれないんですよ? ここは気を取り直して奮起するってのが従者じゃないんですか?」
いかにもらしい相手への問いかけ。
実際、同条件の自分がそんな事言われて奮起するかといえばかなり怪しい。そんなこともあったなぁと過去の話にして、残りの自分の人生を悠々自適にエンジョイする可能性すらある。
けれど私と彼は別だ。
これだけ落ち込んでいるこの人なら、忠誠心だってきっと高いはず。
彼の忠誠心に期待して、私は彼の出方を待った。
「……えぇ、そう……そうですよね」
気持ちが揺らいだように、ぽつりぽつりと言葉が漏れ始めた。
お、これは。
「今こうして不安なのは、私だけではない。それはお嬢様も同じはず」
「そうそう、そうですとも」
彼の気持ちを持ち上げるようにさりげなくアシストを加える。
「とすれば、何としても私がお助けせねば」
彼は静かに顔を上げた。
期待通りの前向きな発言。
うんうん、そうだね。その言葉を待っていた。
その忠誠心、私の目に狂いは無かった。
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「……そういえば、おぼろげにですが」
ほんの少しの休憩を挟んだ私達。
まだ100%安全だと確認出来た訳じゃないから縄で縛ってはいるものの、すっかり落ち着きも取り戻した彼は、悪い夢から醒めたように目に光を宿した表情で、思い出したように語り始めた。
「誰かに強く命令されていた気がいたします」
「命令?」
「はい」
彼は迷いなく頷いた。
「その声は私に『若い人間の命を集めよ、そうすればこの女の命は助けよう』と、そう言っていました」
「それはどこで?」
「恐らく、お嬢様と探索した洞窟だったかと」
「ってことは」
そこが物語の出発点であり終着点。
私は目を見開いた。
目の前の相手もまた目を見開く。
「そこにレイズ様がいる!」
「そこにお嬢様がいる!」
二つの声が森に響いた。




