139.ご都合主義により命に別状はありません
森の中の一角にこんもりと山が出来ている。
アロマスクの街で買いこんだ家具たちが、山盛りになって相手のことを押しつぶしていた。
「さあってと」
手に付いた土ぼこりを払い落とし、私は小さく腰を屈めた。
「どういう事か説明して貰いましょうか……ってあれぇ?」
下敷きになっているのはモンスターのはず。
けれど私の目が捉えているものは、肌の色が黒色になっているような不気味なモンスターではなく、なんてことない、どこにでもいそうな普通のご老人だった。
「これは一体どういうことで?」
「う、うぅん……」
目をくるくる回して倒れている彼の顔を覗きながら、私は首を傾げた。
「とりあえず家具は撤去した方が良さげかな」
===
そして数分後。
「わ、私は一体?」
困惑するしゃがれた声。
「あー起きた起きた」
意識を取り戻した彼を見て、私はひとまず安堵した。
「危うく人殺しになってしまうところだった。というわけで、あなた、人間でお間違いない?」
「はあ……?」
未だ現状を把握していない燕尾服姿のご老人は、困惑しながらも首を縦に振った。
「よろしい。では次に、どうして私を襲ってきたかという話ですが」
「あの、それよりも」
「ん?」
きょろきょろと不安そうに周囲を見回した彼は、それから私を見上げて言った。
「この縄は何とかならないものですか?」
「ああそれ……」
椅子に座ったまま、縄でグルグル巻きにされているご老人を見ながら、私は苦笑を浮かべた。
「うーん、すみません。もうちょっとだけ、そのままでいいですか?」
全ては安全の為。
だってその姿がまたもモンスターが化けた姿だったらとか嫌だもんね。
「話の内容次第ではなんとかしますので」
といっても、この時点で本物のモンスターなら縄を引きちぎって脱するだろうから、この人はほぼ人間と見ていいんだろうけど。
「それで」
私は彼に目線を合わせ、あらためて訊ねた。
「どうして私を襲ってきたんですか?」
「それが」
「覚えていないのです」
「覚えてない?」
そりゃまた都合かいい事で。なんだ、やっぱりモンスターが化けてるのか?
「私が覚えているのは、あの日、いつものようにお嬢様の気まぐれで森の散策に付き添う事になって、そこで怪しげな洞窟を見つけて……」
怪しげな洞窟って。
森に怪しげな洞窟ときたら、絶対触れちゃいけない感じのヤツじゃないか。手前にセーブポイントがあれば、必ずセーブしなきゃ、この後急にボス戦が始まってしまいそうな、そんな感じの。
「ところでお嬢様、お嬢様はどこです?」
「あっ待って落ち着いて下さい!」
その姿で暴れられると。
「あああっ」
バランスを崩したご老人は椅子ごと前のめりに転がってしまったのであった。




