135.蛇足2
新人メイドとしてお屋敷で働く少女ルセリナ。
毎日辛い事だらけでしたが、そんな彼女にも癒しの時間はありました。
それは夜。
「やっと、終わった」
今日一日の仕事を終え、ルセリナは袖で額の汗を拭いました。
外はもう真っ暗。
先輩メイド達は既にいません。
彼女は一人寂しく、宿舎に帰るのでした。
「と見せかけて」
おや、彼女の足が宿舎とは違う方に向きました。
どうやら宿舎ではなく、別の建屋に向かうようです。
「今日もやってるかな」
彼女が辿り着いた先、それはお世辞にも綺麗とは言えない空き家でした。
空き家なので当然誰も住んでいません。住んではいないはずなのですが――。
「よいしょと」
彼女は壁に背を預け、静かに耳を澄ましました。
するとどうでしょう、家の中からはピアノの音が聞こえてくるではありませんか。
ホラーです。
空き家から物音なんて普通なら悲鳴をあげて立ち去ってもいいところです。
そう言えば、メイドの先輩達の噂話で、この家には亡くなった病弱な息子がいて、夜な夜な化けて出るという話を聞いたような気もします。
しかしルセリナは逃げませんでした。
逃げるどころか、その音に聞き入っていました。
「満月を見ながらピアノ演奏を聞くなんて、幻想的で最高の娯楽じゃないですか」
それからどれくらい経ったでしょう。
「はっ、寝てた!」
寝てました。
先ほどの『満月を見ながら~』のくだりは一体なんだったのでしょう。台無しです。
ルセリナは涎を拭いて耳を澄まします。
案の定、ピアノの音は止んでいました。
「帰っちゃったか……」
彼女はいつも音の正体に出会える事を楽しみにしていましたが、結局その正体を掴むことはありませんでした。
===
「ふーん」
「ふーん、って。なんですか、そのつまらなさそうな感想は!」
「つまらない」
次の目標を決めかねていた私達。
遂にその状況に飽きを感じたレイズ様は、あろう事かこの私にフリートークを求めてきたのであった。
「こっちはレイズ様が『退屈だから面白い話をしろ。ホラーがいい』とかぬかすから、必死に見繕ってご提供したというのに」
つまらないとは何事か。
「つまらないものはつまらない。大体最初は、恋愛話って言ったんだ。それを俺は、お前の経験を見越して面白い話に変更してやったんだ。感謝こそされても、文句言われる筋合いはない」
「感謝ぁ!? この無茶ぶりのどこに感謝をしろと」
私はメイドであって芸人じゃないんだから、トークを要求されて感謝はしないってのに。
退屈そうに、下手したらベッドさえ用意すれば、今日はこの場で寝てしまいそうなレイズ様に向けて、私は文句を続けた。
「大体これでも頑張ったんですよ。恋愛要素だって若干織り交ぜましたし……」
「恋愛要素、ねぇ」
遠くを見るような目でぽそりと呟くレイズ様。
あ、こいつ完全に馬鹿にしてるな。
「恋愛要素でしょうよ」
顔を知らない相手のことが気になって、ほぼ毎日そこに通うんだから。
まあ時々、普通に眠いから立ち寄らずに直帰することもあるけど。
「文句あるんですか」
「無いよ」
無いのかよ。
「じゃあもう少し普通の反応してくれたっていいんじゃな……」
「ま、でもそれ、俺だけど」
「え」
今なんと。
「だから俺なんだよ、それ」
「レイズ、様?」
黙って頷くその様子に、世界が停止した。
……ような気がした。




