131.題名が偽りだらけなので、訴えたら勝てませんかね?
「最後に一つ、忘れていることありませんか?」
そう言って私は静かに先輩を見つめた。
「忘れていること?」
そう、忘れていること、だ。
こういう時、無欲な主人公ならそんな細かいところにはこだわらず、めでたしめでたしでその場を退場するのかもしれない。けれど、私は無欲でも無ければ主人公でもない、明日を平凡に生きたいメイドなので、そんなことは構いやしない。
先輩は私から目をそらさず、少しだけ考えるような素振りを見せ、ようやく思い当たったように再び口を開いた。
「……ああ、アレですか」
『アレ』と妙にそこだけ意味深に声色を変えたのは、その言葉を意味するものが、私が訊ねたものと一致しているからだろう。
給与と臨時ボーナス。
それこそが、私が先輩に確認したかったものの正体。
もっと他に色々あるだろうって? 残念ながら、私達の間にそれ以上に重要なものはない。
本当は、この街に残ってベルさんというセレブの紐になれればそれすら不要だったんだろうけど。
「ルセリナさん」
「はい!」
私は期待を込めて先輩を見上げた。
両手を差し出していつでも受け取るアピールをしなかったのはせめてものマナー。最後くらいはね、きちんとわきまえますよ。
「貴女の――」
「おい、メイド」
「!?」
げっ、レイズ様。まさかこのタイミングで話に混ざってくる?
「そろそろ出るぞ」
「あ、ちょっ」
待ってと叫ぶよりも早く、レイズ様の手元にある移動魔法は淡く白い光を発していた。
いやまだこっちは話が終わってないんだよ。
「二人ともばいばーい」
ばいばーい、じゃない!
「あの、先輩っ。シュタイン先輩。早く、私に、報酬を!」
「報酬? 何言ってるんだ、お前……」
ああーレイズ様の耳にも余計な情報が入ってしまった。でも今はそんな事で嘆いている場合じゃない。それよりも貰えるもん貰っておかないと!
私の意思に反して、シュワシュワと白い光が体を包んでいく。
こうなったらなりふり構わずに手を伸ばした。
「先輩!」
「その事ですが」
「何ですか!」
早くしてくれ。
けれど、私の焦りなど嘲笑うように、先輩はゆっくりと右手を皿のようにして、レイズ様を指した。
「ん?」
片眉をあげるレイズ様。
「レイズ様がどうかしたんですか!?」
先輩は作りものの微笑みを浮かべながら小さく首を横に振った。
「レイズ様ではなく、そちら。その移動魔法」
「移動魔法!?」
確かに手のひらはよく見るとレイズ様ではなく、その手元へと向けられている。
「それが一体どうし……」
「貴女の給与とボーナス。そちらは全て、その移動魔法購入に充てさせていただきましたよ。説明したでしょう、ただの移動魔法じゃないと。入手までの手間賃は除いているんですから、感謝してもらいたいくらいですよ」
「なっ」
なんですとーーーー!?
……そんな訳で、こうして私とレイズ様は光の中に溶けていった、のであった。




