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130/151

130.過去の男と決着って聞くと修羅場感がある


「何をやられているんですか?」


 疑問を含んだ涼しい声。

 私はゆっくりと首を捻った。


「……先輩」


 見られていたか。

 シュタイン先輩は冷ややかな様子で私を見ていた。

 冷ややかに……とはいえ、相変わらず笑みは崩さないあたり、この人にとって私の行いなど想定の範囲内なのかもしれない。


「いやあ、夢だったらいいなと思って」


 私はつまんでいた右手を後ろに隠し、苦笑交じりに答えた。

 先輩は何も言わずにこちらを見ていた。

 たぶん幼稚な発想だと私に対して呆れているんだろう。

 容易に想像出来てしまった辛辣な返答に、私は視線を落とした。


「そうですね」

「……えっ?」


 辛辣な言葉……じゃない?

 先輩にしては珍しくそんな言葉が出た事に、私は思わず俯きかけていた顔を上げた。


「……?」

 

 何か変な物でも食べたのかもしれない。

 じゃなきゃ明日は突発的な大災害が起こるとか。

 私はまじまじと先輩を観察した。


「どうしましたか?」

「あ、いや」


 つい目が合ってしまったのが気まずくて、私は慌てて視線を反らした。


「夢だったらいいなんて、先輩もそんな風に思うことがあるんだなあって」


 いつもはすっぱりと現実を言い聞かせてくるのに。


「普段は思いませんね。私達は現実を生きていかなければなりませんから」


 やっぱり。私の見立てに狂いは無かったようだ。


「でも」

「でも?」


 少し間を置いて、言葉を選ぶような素振りを見せた先輩は、その言葉を発すること無く小さく首を横に振った。


「いえ、なんでもないです」

「なんでもない?」


 いや、嘘だ。今、絶対何か言おうとしてたじゃん。

 けれど私がこれ以上問い詰めたところで、答えが出て来ないのはなんとなく分かった。

 私は、はぁと脱力して溜息を漏らした。


「いっつもそうですよね。変なところで答えをはぐらかす」

「私、こう見えて意外とシャイなもので」

「嘘ばっかり。シャイな人は自分をシャイって言わないって、昔から相場は決まってます」

「おや、そのような相場は初めて聞きました。今度紹介してくださいね」


 これも嘘。

 大体、私達に”今度”は存在しないことくらい知っているだろうに。

 ……だからこそ、そろそろ決着をつけなければいけない。


「シュタイン先輩」


 私はこれで最後になるかもしれない彼の名前を呼んだ。


「なんでしょう、ルセリナさん」


 いつもと何も変わらない、私の名前を呼ぶ声。


「今度こそお別れですね」

「そうですね」


 まるで日常会話をするみたいに、喜びも悲しみも感じない単調な会話。

 これじゃレイズ様とベルさんのことを言ってられないな。

 私は全てを清算するように、すうっと静かに息を吸い、そして言った。




「最後に一つ、忘れていることありませんか?」



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