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128/151

128.その執事は当然に有能だった


「それって」


 先輩の前に現れた一見すると何の変哲もない一枚の紙切れ。

 けれど、この世界では、そんな大したことなさそうな物でも、思いもよらぬ力を持っていることがよくある。今回の追放の誓約書とかね。

 だから侮ることは出来ない。

 私はシュタイン先輩の口から紡がれるであろう答えを静かに待った。


「移動魔法です」


 先輩は答えた。

 移動魔法とは、自分達がアロマスクの街に移動する際に使った魔法である。確かにあれなら秒で移動が可能だ。お値段は結構お高いが。


「わー、さっすが先輩」


 私はポンと軽く手を叩いた。


「なるほど、その手がありましたね。私としたことが、そんな簡単な方法を見落としていましたよ」

「簡単?」


 えっ。

 その言葉を聞いた先輩は、ホラー映画の日本人形が振り向くみたいに、ゆっくりと笑顔をこちらに向けた。


「これは、ただの移動魔法ではありませんよ?」


 ただの移動魔法、じゃない?

 ぱちくりと瞬きをしながらその意味を推し量ろうとする私に対して、先輩は追い討ちをかけるように言葉を続けた。


「国外追放、つまり国境を越えるわけですが、その際には入出国手続きというものが必要なのはご存じですね?」

「いえ、全然」


 思わず本音がポロリと漏れた。

 だって知るわけがない。

 あのお屋敷でのらりくらりとメイドとして生きていこうと決めていた私にとって、国外追放なんてイベントは、別の物語を生きているお嬢様お坊ちゃまの話だと思っていたんだから。


「お前、知らなかったのかよ」


 まるで私なら知っていて当然だという口ぶりでレイズ様が訊ねた。


「レイズ様は知っていたんですか?」

「知るかよ、国を出るなんて。行商人かやらかした貴族くらいしかやらない話、俺には関係無い」

「奇遇ですね。私もそう思ってました」

「……」


 レイズ様は顔をしかめた。


「……こほん。とにかく、国を出るにはそれなりの手続きがあります。それは移動魔法を使っても同じことです」 


 どうやら制限時間の関係からか、どんなにこちらが不出来でも笑顔で通すと決めたらしい先輩は、そう言ってぺらり手にしていた移動魔法をこちらに向けた。


「こちらの移動魔法は、その入出国の承認も済んでいる代物です」

「おお!」

「いいですか。ただの移動魔法では、国境に着いた時点で、手続きに手間取って制限時間を超えてしまっていたんですからね?」

「はいはい」

「くれぐれも『簡単な』方法だったとか言わないように」

「分かってます、分かってますって!」


 妙に珍しく容易では無かったことを主張する先輩に、私は何度も首を縦に振った。

 どうした先輩、たまには褒めて欲しくなっちゃったか?


「ありがとうございます。さすがは私の尊敬するたった一人の先輩ですよ」


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