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123/151

123.一瞬じゃ名残とは言わない


 私が出ていった後の異変ってなんだ。

 その疑問に先輩は、少しだけ考えるような素振りを見せ、言葉を選ぶようにして慎重な口調で答えた。


「貴女がいないはずのお屋敷に、貴女の気配を感じました」

「私の気配? でも私は」


 もちろん身に覚えはない。

 忘れ物を取りに戻ったとか、実は分身していたとか、そんな事も決して。


「おい、シュタイン。こいつは俺とずっと一緒だったぞ」


 珍しい、レイズ様のフォローだ。

 慌てて彼の方を見ると、レイズ様は相変わらず面白く無さそうな顔を浮かべていた。この人の事だから、飽きてきたのかもしれない。


「ルセリナさんがあの場にいない事は承知しています」


 何が面白いんだろう。シュタイン先輩は少しだけ口元を緩ませていた。


「だからてっきり、私がルセリナさんを名残惜しんでいるだけなんだと、一瞬はそう思ったのですが……」

「一瞬って」


 短いな。


「はい、一瞬です」


 先輩は実に曇りの無い爽やかな笑顔を私に向けた。


「お屋敷で感じたルセリナさんの気配、それはルセリナさん本人の気配ではなく、ルセリナさんがよく使う魔法の気配だったのです」

「それが『偽装魔法』……」

「ええ、それです。私としたことが、貴女がいつもしょうもない魔法を使うせいで、そっちの気配に敏感になっていたんですね」


 事あるごとに私の不正を疑い深い目で見てましたもんね、先輩。


「そりゃあすみませんね」

「いえいえ、お気になさらず」


 口では気にするなと言っている割に、その口調からは妙に棘のような物を感じた。これ追放とか関係なかったら、後でこってり小言を言われるパターンのヤツだな。


「お前って、本当に普段からどうしようもないのな。よくそれであの家のメイドやってたな」

「……一応皆さん普通に生活出来ていたんだし、及第点ってとこでしょう」

「それってアリスがいたからだろ」

「そこはノーコメントで」


 レイズ様は私の顔を見るなり、また溜息をついた。幸せが逃げても知らんよ。


「今回の場合は、これが功を奏しました」


 軌道修正。

 私達の会話が終わる絶妙なタイミングで、シュタイン先輩はそう言うと、手にしていた誓約書の一文に再び指を触れた。淡い光が解けるように拡散していく。


「これって」


 ものの数秒。自由に拡散していったと思われた光は、規則性があるように一本の糸として姿を変えた。


「『審美眼』の応用です。真偽を見極めた後、その正体を本来あるべきものへ結びつける力。まあ簡単に言えば、誰がこの魔法を使ったのか分かるってだけの話なんですが……」


 そう言って先輩は、光の糸が連なるその先を静かに見つめる。光はか弱くも真っ直ぐに、部屋の壁を突き抜けどこかへと向かっていた。



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