121.私の表情が分かりやすいなら、困ってる時すぐ助けてくれよ。
「ではレイズ様」
レイズ様にたしなめられたシュタイン先輩は、いつの間にか表情をいつもの心無い微笑みに戻していた。
「例の誓約書いいですか?」
そう言って歩み寄り手を差し出す。
「ああ」
その要求に無愛想に短く返事をしたレイズ様は、私に見せた時のように手を宙に伸ばす。白い光。追放を誓約する例の用紙は、ふわりと羽のような軽さで再び私達の前に姿を現した。
「ほらこれ」
「失礼します」
先輩は差し出された誓約書を受け取った。
「やっぱり。どこにも制限時間なんて書いてないんですよね、これ」
先輩の隣で誓約書を覗き込む。あの時見たのと変わらない。名前とか追放するとかそういったことは書かれているのに、問題の制限時間については時間の「じ」も書かれていなかった。そんな後だしじゃんけんみたいな誓約書ありなのか?
先輩はチラッとだけ私の方を見て、もう一度誓約書に目を移した。
「いいですか、こちらを見てください」
「え、はあ」
言われた通り、その肝心なことが抜けた誓約書をじっと見つめる。
「では」
すうっと流れるように先輩の指が紙をなぞった。
「先輩ったら一体何して……お、おおお!」
文字が新たに浮かび上がっている。それはまるであぶり出しのように、空白だったところから、しっかり文字が出来上がっている。
「すっごい手品ですね、先輩!」
「ははは、馬鹿言わないで下さい。貴女にならともかく、レイズ様が関わってる案件でそんなくだらないことするわけないでしょう。魔法ですよ、私の」
「魔法……?」
私にならともかくって発言は一旦聞き流すとして、魔法? 先輩が使う魔法って事はもしかして。
「お忘れですか? 貴女の偽装を見破った魔法、『審美眼』ですよ」
「あー」
やっぱりそれか。もちろん全然お忘れでは無いですよ。忘れるわけないだろう、私をこの現状に陥れた原因なんだから。
「言っておきますけど、貴女が追放されたのは私の魔法のせいではなく、日頃の行いの結果ですからね」
「すみません、ちょっと私の考えを読むの止めてもらっていいですかね?」
「解りやすいんですよ、貴女は」
それベルさんも言ってたな。全くどいつもこいつも。
「私の魔法で、この誓約書にかかっていた偽装を解除した結果がこれです。読んでみて下さい」
シュタイン先輩から誓約書が手渡される。
「えーなになに。ふむふむ、『契約執行まで残り15分』……本当だ、書いてありますね」
残り15分とか随分軽い気持ちで言ってくれるじゃないの。こっちは命かかってるんだぞ、馬鹿なのか。
「よくもまあ、こんな大事なものを隠してくれましたね……」
「ルセリナさん」
「なんです?」
今更謝罪されても遅いですよ。
「何か勘違いしているようですが、それをやったのは私じゃありませんよ」
「え?」
シュタイン先輩じゃ、ない?
「言ったでしょう、『偽装』を解除した結果って。そこに使われていたのは『偽装魔法』ですよ」
「偽装魔法……?」
偽装魔法、ってことは。
「犯人は、私?」




