12.美少年に愛されすぎて困ってます(現実的に)
フェリクス。ハスター様とローザ様の間に生まれた貴重な一人息子。私にとってはこの世で一番関わりたくないクソガキ坊ちゃま、15歳。
本当はもう少しいたメイドや執事達が現在この人数なのは7割くらい彼のせいだと私は思う。私は意地でも辞めてやらないけど。
「僕、思うんですけど」
若さゆえのぴっちぴちのお肌、サラッサラのブロンドの髪、翡翠色の吸い込まれそうな瞳などなど、これでもかってくらいの美少年の条件を備え付けたこのお坊ちゃまに私は何度この身を奪われそうになったことか。マインド的な意味ではない。命的な意味で、である。
最近だと「外の世界を見たいから」という理由で彼の散歩に付き合ったところ、森の奥深くの山小屋に鍵付きで閉じ込められ置き去りにされて、そのまま野生生物の餌になるところだったっけ。
「二人がこのまま国外追放されてしまったとして、見知らぬ地で生き抜くのは難しいと思いませんか?」
いや待てよ。何既に私が国外追放される前提で会話進めてるんだこのお坊ちゃまは。まだハスター様は判断下してないっつーの。
「他国の情勢はとても厳しいと聞きます。もしかしたら死ぬよりも辛い目に合ってしまうかも……」
絵になるような悲壮な顔。
私は今まで何度この顔に騙されたことか。死ぬよりも辛い目ってのはお前がやらかすことだろう。先々週、残り物の夕食をこっそり持ち帰った時、中に強力な下剤が紛れていたこと、私一生恨んでやるからな。
大体なんでコイツの悪行にみんな気付かないんだよ……あ、目があった。ほら、今笑った。笑ったって! 悲壮な顔してたくせに笑ったよ。皆さん見ーまーしーたーかー? フェリクス様、笑ーっーてーまーすー!
「そんな目に合わせるなら、いっそ安楽死を選ん――」
「は? おい、待てよ!?」
はいはい出ました、いっそ死んだ方が幸せ発言。言うと思った。分かってましたよ私は。何か事あるごとに私のこと殺そうとしてたもんねー。美少年サイコパスだよ、お前は本当に。ほら見ろ。さすがのレイズ様もキャラが崩壊して怒ってるじゃないか。いいぞ言ったれ。
「なんで俺が死ななきゃいけないんだよ」
そうだそうだー!
「国外追放で生き抜くのが難しい? 死ぬよりも辛い目? 俺を誰だと思ってるんだよ」
よっ、レイズ様ー!!
「馬鹿にしやがって。確かに俺はアリスの形見を盗んだ。俺が何やってもこいつが動じなくて面白くなかったからな」
キャーそれって恋ってやつですかー?
「だから罪は認めるよ。でもな、死んだ方がいいなんて俺は思わないね」
全くその通りだ!
「国外追放? いいよ、やってやるよ!」
いいぞいいぞ、かっこいい……ん? ちょっと待てよ。
「国外追放でも絶縁でもなんでもやれ! 命さえあれば俺は後悔なんてしないね!」
「レイズ……」
「レイズさん……」
「お兄様……」
こんのアホ息子。
「お兄様のお気持ちはよく分かりました。その身をもって王家に対する不手際の後始末をする心意気、尊敬いたします。お父様」
「う、うむ」
「レイズお兄様は自ら追放されることによって、僕達が今後も王家の皆様と滞りなく関係が続けられるようにと考えておられる様子。ここはお兄様の意思を尊重して差し上げるのがよいかと」
「……そうだな。レイズ、ルセリナ、二人に今回の件で改めて処分を言い渡す!」
ハスター様は決心したように私達二人の顔をみつめた。心なしか声が震えている。
「二人とも、国外追放とする」
決まって、しまったか……
「ハスター様」
「どうしたルセリナ」
「このお屋敷の家事はいかがいたしましょう。私にその事が心配で心配で……」
私がいなくなったら残るのはシュタイン先輩とアリスちゃんだ。まさか王族にゆかりのあるアリスちゃんにメイド業務をやらせるなんて事は――
「それは大丈夫だよ」
また出たか、フェリクス。クソ坊ちゃまよ。
「アリスお姉ちゃん、メイドさんのお仕事やってくれるみたいだもん。ねー」
「そうなのか? アリス」
「は、はい。最初からそのつもりでした。確かに私は王様との間に生まれた子。ですが私は決して王族と認められている身分ではありません。だたの母を亡くした一人の娘です。働き口もありません。もしよかったら、このままメイドとして雇っていただけないでしょうか」
「そ、それは構わないが……」
うんうん、アリスちゃんはいい子だからなぁ。……私の目論見は外れたけど。
「やったあ。アリスお姉ちゃんよろしくね!」
それもこれもコイツのせい。何から何まで全て嵌められた気分だ。
無邪気に笑う美少年。その笑いが一瞬だけ私のことを嘲笑っているかのように見えた。




