119.レイズ様を巡る戦い。私は蚊帳の外。
「もちろん理解はしてましたよ。ですが、色々と事情がありまして」
私は珍しくシュタイン先輩にもっともらしい返答をした。
嘘はついてない。マリアさんの件とか中々ハードな要素が絡んでいたのは事実だ。
「ああ、そうでした」
そう言って先輩はポンと手を叩く。
珍しいな。思いの外、好意的な反応だ。
先輩のその様子に私は思わず目を見開いた。
「魔法で妨害されてる方とかいましたね。レイズ様をその脅威からお守りしたのは大変素晴らしかったですよ」
「ですよね!」
警戒心はどこへやら。流れるように行いを褒められた私は、前のめりになって話に乗った。
『見てたなら何故助けてくれなかったのか?』なんて疑問はこの際口にはしない。先輩にネチネチと小言を言われないんだから、それだけで十分だ。あとは会話がこのまま終わってくれるのみ。
「けれど」
あっ出ちゃった、逆接。
今回こそは平和なトークのまま、ぶっちぎりのゴールを決めてくれると思ったのも束の間、先輩の口からはこれまでの高評価を当然に覆すであろう悪魔の逆接的接続詞が生まれた。
「けれど……なんでしょう?」
体をこわばらせ、身構えながらそっと訊ねる。
けれど、先輩のその悪魔的な笑顔は私ではなくベルさんの側へと向けられたのだった。
「ルセリナさん、貴女まんまとヒューベル様ご希望の花嫁になる必要はありませんでしたね」
「えっ」
まんまと?
「ははは、今回ルセリナちゃんには大変お世話になりましたよ」
「え? えっ?」
私を挟んで、表面的にはにこやかな笑顔を送り合う二人。でもなんでだろう、そこに流れている空気はかなり不穏だった。
大体、私が花嫁になったことを表現するのに『まんまと』なんて言葉使う? 騙されて罠に嵌った時に使う言葉だよねそれ。言われてみりゃそうなんだけど、それでも相手は領主ですよ先輩!
「シュタインさんは、昔からレイズと一緒にこの街に来ては、花嫁選びのイベントに良い顔しなかったよね」
「当然です。万が一、レイズ様がこの街の感性のまま、外の世界で他者とコミュニケーションを取ってしまったらどう責任を取るおつもりですか」
「そっちは諦めてこの街の住人になればいいんじゃないかなぁ?」
「……」
うっわベルさんよく言う。私だったら即関係を断つけどな。だって嫌でしょ、遊ぶたびに小姑みたいな男がドロドロと不穏なオーラ出してたら。そういうの気にしない相手だからこそレイズ様も友達でいるのかもしれないけど。性格歪んでて、本当の友達とかいなさそうだもんね、この人。
「なんだよ」
「いやいや。素敵な友情だなぁと思いまして」
「お前絶対馬鹿にしてるだろ」
「してませんって」
手をひらひらとさせ、私はレイズ様に愛想笑いを向けた。




