117.唐突に死を宣告される
「遅い」
帰宅してすぐの第一声はそれだった。
お前は昭和の頑固親父か。
「買い物ぐらいすぐに済ませろよ」
「『買い物ぐらい』ってレイズ様ね」
だからって負けるわけにはいかない。
謝罪して当然だと言わんばかりに見下すこの男に私は詰め寄った。
「私が一体何を買っていたか分かります? 今後の生活に必要な物なんですよ? 簡単に済ませられるわけ……」
「知るか」
うっわ、嫌な奴。
そっぽを向いてやれやれと、これじゃ私が本当に使えない人間みたいじゃないか。
「お前お得意の便利な魔法はどうした。それ使ってさっさと片付けられただろ?」
「私の魔法にだって出来ることと出来ないことがあるんですー」
「ははっ、使えない魔法だな」
イラッ。
使えねぇのはてめえの脳みそだよ。
「やーだなーレイズ様。じゃあ使えるところ見せましょうか? そのあなたの『私を馬鹿にする心』、偽装魔法で『私を大切に思う心』に変えて差し上げますよー」
「やれるもんならやってみろ。絶対効かないから」
「いやーどうでしょうねぇ? 自分の財産の時は気付かなかったんですから、無理なんじゃないですかぁー?」
「大丈夫だ。そのふざけた魔法、俺が失敗させてやるよ」
言ったな、こいつ。
「よ、よーし分かりました。じゃあやってやろうじゃないですか」
心には使ったこと無いけど、この際どうなっても知らないからな!
私はレイズ様に手をかざした。
「はいはい、どうぞどう……」
「はい、ストップー! 駄目だよ、レイズ。このままじゃ埒があかないから、俺がこの場は預かるね」
そう言って、すすすっと間に入ったのはベルさんだった。
その姿も板についてきましたね、でも。
「止めても無駄ですよ」
私は本気なんだから。
「わー待って待って、ルセリナちゃんの気持ちも分かる。分かるけれども!」
必死に私の動きを制し、どちらの口も挟ませないまま、ベルさんは早口で言葉を続けた。
「追放のタイムリミット、あと20分なんだって」
「は?」
タイムリミット? 何それ。初耳だ。
掴まれた腕から目を離し、私はベルさんを見上げた。
「それまでに国外に出ないと追放とみなされないらしいんだ」
焦りながらも必死に告げるその感じ、冗談とか場を取り繕うための嘘ではない。じゃあ本当に?
「追放されないとどうなるんです……?」
私は恐る恐る尋ねた。問題はそこだ。
「えっとそれはー……」
「死ぬ」
「死ぬぅ!?」
レイズ様から飛び出たあまりにも非現実的な言葉に思わず声が裏返る。ベルさんを押し退け、私はレイズ様に掴みかかった。
「命ぃ? 命がかかっちゃってるの? このふざけた追放に? 嘘でしょ」
「止めろ離せ、服が乱れる」
服なんか知ったことないっての、それよりも。
「本当に死ぬんですか、私達」
だってこのまま街から国境を越えるのだって、地理的には二時間くらいかかるでしょ。無理ゲーじゃないか。




