114.これは敗北じゃない。戦略的撤退なんだ!
「本当に、全てが偽りだったのね」
彼女の手元に現れた紙切れ。多分レイズ様との賭けの顛末を誓約したものだろう。それは空間に現れたかと思うとシュルシュルと黒く変色していき、最初から何事も無かったかのように消失した。
夢物語から覚めた世界。
彼女の見ていた理想的な夢は、私の手によって色あせた現実に変えられてしまったのかもしれない。
「あなた、素敵な魔法が使えるのね」
「とんでもない」
それでも微笑みを絶やさないマリアさんの視線を遮るように、私はぶらぶらと手を振った。
「いつもは仕事をサボるために使うふざけた魔法ですよ」
ふっ、決まった。
こうして私は彼女をギャフンと言わしめたのでした。めでたしめでたし。ささ、後は撤退、撤退。
「ときにメイド」
「……なんでしょう」
せっかくいい感じに締めたのに。御用ですか、レイズ様。
見るとたんたんたんとリズミカルに机を指で叩いている。どうしたの、まさか見せ場取られてご不満とか?
「何か他に言うことあるだろ」
「無いですよ?」
ルセリナ三文劇場はたった今終わりました。
「そうか、じゃあ聞くが」
なんか嫌な予感。
「お前は俺に無断で財産を処分したんだよな」
ギクッ。
「そ、そうですよ?」
頼むからここで話終わってくれ。
「一体どこに処分したのか、その説明がまだ聞けてないんだが。まさかお前、自分の懐に処分なんてしてないよな?」
ギクギクッ。
うわぁ。なーんでそういう相手が嫌なところに気付いちゃうかな、この人。
「ま、まさか寄付ですよ、寄付。レイズ様がお世話になったこの街に寄付したに決まってるじゃないですか」
精一杯の弁論。
寄付ってのは嘘じゃない。……まあ一部は処分手数料ってことで私のお財布にインしたけど。
だ、だって、シュタイン先輩が言ってたし、『レイズ様の所有する財産を全て処分してください。処分出来たら、その一部は貰ってもいいですよ』って!
「ふーんそうか」
「そっ、そうそう、そうですともー……」
「ベル」
「ん?」
「本当にこいつが全額寄付したか調べてみろ」
「ちょっ」
領主を使うのはズルいだろ!!!
「うん、分かった。調べ……」
ベルさんからもフォローしてくれないし! 一夜限りのパートナーより友人を選んだな、この男!
かくなる上は。
「い、いっけなーい。私、これから追放後の生活用品揃えなくっちゃ! レイズ様の分もバッチリしっかり揃えてきますから、どうぞご友人とお寛ぎ下さいね!! それではちょっと行ってきます!」
私は死に物狂いで部屋をあとにした。
悪役は去り際もこうでなくっちゃね! いや、本当危なかった~。
「……」
「……」
「……で、調べる?」
「必要ない」
「あはは、だよねぇ~」




