113.墓まで持っていくほどの秘密では無いけど、外出てその辺までなら持っていく秘密
えーテステス、マイクテスト。大丈夫、ちゃんと使えるな。うん。ここでミスったら生涯笑いものになるからな。ちゃんとビシッと決めよう。
「マリアさん」
「何?」
「真の悪とはこういうものですよ………………偽装魔法、解除!」
パチンと甲高い音を立て、私の指は高らかに鳴り響いた。
「……」
「……」
辺りがしんと静まりかえる。
まるで時間が止まったように。
別に派手な魔法が飛び出たわけでも何でもない。
今までと何も変わらない景色の中で、私達はただ黙ってその場に静止していた。
「……これは」
それはベルさんの言葉だった。
恐る恐る周囲を見回し、そこに何も変化が無いことを確認すると、彼はゆっくりと首を傾げる。
「別に何も起こってないように見えるけど?」
そうです、その通り。ベルさん大正解。
私は心の中で拍手を送った。
「なんの真似かしら?」
マリアさんはそう言って私の顔を見つめた。
「残念だけど、何も起こらなかったようね」
勝利を確信したように、彼女の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。
それを見て私もニヤリと口元を緩めた。
「さて、それはどうでしょう? よくよくご確認下さい。貴女自身を、持ち物を、財産を」
「私、自身……?」
彼女は自分の姿に目を移す。
あくまで冷静に、余裕のある女性を装っていたその表情が強張った。
ようやくお分かりいただけましたかね?
「……どういう事?」
「そういう事です」
さっきまで煌びやかに飾り付けられていたはずのマリアさんは、まるで夢でも見ていたかのように、ごく普通の黒いシンプルなワンピースを纏った女性に戻っていた。
「あなたがあると思っていた財産も、それで買った服も何もかも、全ては偽りだったんですよ」
「偽り?」
「ええ。だってレイズ様の財産なんてものは既に存在しないんですから」
レイズ様のこの街での財産。私が偽装したのはその全てだった。現金から装飾品、所持しているという意識も含めて全て。
「お前、そんなのいつの間に」
「ちょっととある方に再会しまして、その時に」
シュタイン先輩と再会したあの日の夜、私は彼からある提案をされた。レイズ様を無事追放させる事ともう一つ。
「『レイズ様の所有する財産を全て処分せよ』とのご命令がありまして、その通り実行させていただきました」
下手に財産があると、追放されたフリだけして街に残る可能性がある。そこを懸念しての処分せよとの判断だったようだ。
「よく俺の財産なんて全部把握出来たな」
「そこはまあ……私、優秀なメイドなので」
本当は全部シュタイン先輩情報だけど。さすが毎度レイズ様に付き合わされてただけあって、その辺は怖いくらい詳しかった。こういう人に財布握られたら、たぶん私は死ぬ。
「俺のメイドとか自称してた奴が聞いて呆れる」
「だから最後に確認したじゃないですか。『レイズ様が受け入れてくれるなら』って」
「誰がこんな事待ってると思うか」
「思いませんよね」
だからずっと黙ってたんだし。
私だってこんな事にならなきゃ、この街出るまでは偽装してようって思ってたよ。




