108.煩悩の数が足りないので0を三つくらい付けてください
「という訳で、はいこれ」
「……これ?」
何が『という訳』なのかというツッコミはさておき、食事も終わって別室に移動した私達を前に、ベルさんは一枚の紙切れを差し出した。真ん中にゼロがいくつもある数字と領主ヒューベルのサイン。
「今回協力してくれたお礼。この街のルール自体が変わったから上級市民権って訳にはいかないけど」
「ふむ」
「好きに使っていいよ」
「そうですか、好きに使って……このお金をですか?」
「そうそう」
「……なるほど」
……えー、おわかりいただけただろうか。
単刀直入に言おう。
富豪になった。
「レイズ様」
「なんだ」
「今まで大変お世話になりました。お暇をいただきます」
この物語、完。
ご愛読ありがとうございました。
次回からは『富豪になった女、異世界転生して一発逆転人生』をお送りいたします。
「いやちょっと待て」
「なんですか」
私はこれから第二の人生謳歌するんだから手短に頼むよ。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりって、ねぇ?」
誰だって宝くじが当選したら即会社辞めるでしょ? 辞表叩き付けるでしょ? 一生遊んで暮らすでしょ?
「メイド、辞めようかなって」
「辞めてどうする」
「このお金で遊んで暮らそうかなって」
「追放は?」
追放。ああ、そんなのもあったなあ。今となってはシュタイン先輩に握られた私の給与など、はした金に過ぎないけど。
「フリでいいんじゃないですか? 追放されたフリ。あとは念のために、関係者にお金握らせて黙らせておけばオッケーみたいな」
お金があるんだ。如何様にも出来る。お金こそ全て。よっ待ってました。
「はぁ……馬鹿なのか」
「私はとても真面目ですよ」
「そうか、じゃあこれを見せてやる」
「はいはい、何でもどうぞー」
レイズ様が空間に手を差し伸ばした。ばしゅっという音と共に光が放つ。
そこにはまたしても、一枚の紙が握りしめられていた。
「……これは?」
「見て思い出さないのか」
「さっぱり」
「誓約書だ」
「何の」
「俺とお前の追放の」
「……」
……。
「えっ」
そんなもん、あったの?
でもよく見ると、確かに誓約書の下の方に、私の名前できっちり署名してある。やだ怖い。
「あのー……」
「なんだ」
「記憶に無いんですが」
きっと誰かが私を罠に嵌めようと偽装したに違いない。そう、例えばフェリクスとか!
「ちょっと手ぇ貸せ」
「あ、はい」
言われるがままに手を差し出すと、レイズ様はぐいと掴んで例の紙切れへと触れさせた。じんわりと手が温かい。
「光ってる」
触れた私の名前からは、青白い光が輝いた。これは所謂、反応してるというやつか。
「どう見てもお前だろ」
「ですね」
「お前のことだ、どうせ面倒な事務処理か何かだと思って、内容も読まずに適当にサインでもしたんだろ」
「……かもしれませんね」
そういえば追放までの事務処理が妙にスムーズだったよね。
「ちなみに」
下から見上げるようにしてレイズ様の顔を覗く。そんな私を蔑むように、顔だけは整った男がこちらを見下ろした。
「これ破ったらどうなります? まさか死ぬとか?」
「やってみるか?」
「やめときます」
結局のところ、私は追放から逃れることが出来ない運命にあるらしい。




