101.異世界転生したからって金持ちになれるわけではない。
「さあ泣いても笑ってもこれが最後!」
司会者によるベルさんの紹介も終わり、いよいよ私の告白パートがやってきた。司会者の女性は声を高らかに響かせる。会場の盛り上がりも最高潮。一体どんなイベントだよこれ。
「それでは心のこもった告白をお願いします!!」
「どーぞ、ルセリナちゃん」
優しい声。ダンスに誘いだすように、ベルさんがそっと右手を差し出した。
ここで言えれば全てが決まる。
ゴールはもうすぐそこに迫っていた。
「……」
――いや、やっぱり普通に恥ずかしいって!
こんなに大勢が見ている中で、告白? 礼儀も知らない三流メイドが演技とはいえどの面下げて領主様に告白するのよ。好きって言えばいい? そんなの簡単に出来るなら、今頃とっくにメイドなんか辞めて異世界転生悪役令嬢ものよろしく金持ちに嫁いでハッピーエンドを飾ってるよ。
波が引いたように静まる会場内。背中に沢山の人の期待にこもった視線を感じる。
――あー嫌だ、やっぱり辞めたい。
弱気な感情が押し寄せる。
大体なんで私がこんなこと。
――本当よね。
ほんとだよ。レイズ様の娯楽に付き合ったばっかりにもう散々。
――貴女が頑張る必要はあるのかしら?
無いよねー。たかがメイドの私がここまで頑張る必要なんて全然無……
「っ!?」
その瞬間、全身に風邪の時にも感じたことの無いような、異常ともとれる悪寒が襲った。
――しまった、余計なこと考えすぎたかも。これ、マ、リアさんの、ま、ほう、が
白から黒に塗り潰されるような感覚。砂糖菓子のように甘い声が頭の中で優しく囁く。
――嫌なら辞めればいいじゃない。
そうだ、嫌なら辞めればいい。イヤナラ、ワタシハ、ヤメ……
「……わ、たし、は」
「ルセリナちゃん」
ベルさんが異変に気付いた。けれどもう遅い。
ああせっかくここまで頑張ったのに。
全身が嫌悪感に包まれる。逃げ出したいと体が大きく悲鳴をあげる。
「ご、め」
ベルさんごめんね。ここまで用意してくれたのに。
体がこの場を立ち去ろうと、半ば強制的に反転していた。逆らえない。
――もう駄目だ。
今にも倒れてしまいそうな意識の中、私は必死に踏みとどまろうと力を込める。けれどその力も見えない圧力によって徐々に侵食されようとしていた。
――レイズ様にも絶対馬鹿にされるだろうな。
見下すような冷ややかな視線。それ思い出しげんなりとした気持ちになった。
――ほらきっとあそこで見てるよ。
今にも溢れ出そうな涙を必死に堪え、やっとのことで目を開く。
そこに映る男女の姿。
――ほらね、やっぱり。こっちを見て冷ややかな視線を送って……ん、何やってんだあの男。
よくよくよーーく見てみると、レイズ様とマリアさん、もしかして仲良く二人で談笑している……?




