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メイドは見た。氷の若様の本性。

作者: 七瀬直
掲載日:2019/09/27

挿絵(By みてみん)

 レモンは、メイド歴5年。料理はできないし縫物も得意ではないが、掃除が好きなので今日も館のあちこちから埃を取り除いている。


 この館には勤めて3年になる。旦那様は男爵で、その夫人、跡継ぎとなる若様と、その姉君・妹君がご家族だ。皆様とてもきちんとした方々で、世の中では氷の男爵家とも呼ばれているらしい。3年勤めている間に、ご家族の顔色が血気よくなる所を見たことがない。微笑む時ですら、辺りを冷気が走るような……


 さて、今日は珍しく、風邪をひいた若様付のメイドの代わりに、若様のお部屋の掃除を任せられた。レモンはいつも通り顔にマスクを当てて、若様のお部屋へ向かうところを……先輩メイドに止められた。

「若様のお部屋が埃っぽいわけないでしょ、マスクを取りなさい。それから、髪ももう少し整える!」

「これがあると安心なのに……」

 言われた通りマスクを外すレモンは、心細さを覚える。

 先輩メイドはレモンの髪を梳かしてきつくぎゅっと結わえながら言った。

「いいこと? ご家族の前で笑ってはダメ」

「笑ったらどうなります?」

「……昔、笑ってしまったメイドが、屋敷からいなくなったわ。彼女のその後は、誰も知らない」


 少しのことで笑ってしまう自信のあるレモンは、自分の心に固く言い聞かせる。

(笑ってはいけない……)

 緊張しながら、若様の部屋の前に立つ。

(まずい……緊張して余計に笑ってしまいそう……)

 顔の筋肉に引きつりを感じながら、先輩メイドの後に続いた。


 開かれた扉の向こうには──若様はもちろん、ご家族のどなたも居なかった。

 くくく、と先輩がレモンの肩を叩きながら笑う。

「お掃除の時間にご家族がいらっしゃる……と思った?」

「そりゃそうですよね!! いらっしゃるわけないですよね」

 レモンの目が輝く。自由にお掃除ができる!! 

 けれども、先輩メイドは釘を刺した。

「でも、いつふらっとお帰りになってもいいようにね?」

「……そりゃそうですよね……」

 

 書斎の掃除を任されたレモンは、本棚の隙間から丁寧に埃を吐き出した。流石に若様付の先輩メイド達がきちんと掃除をしていて、それほどの埃は集まらない。

 ……と、レモンは本棚を眺めて、あることに気が付いた。

(並んでるのは随筆ばかり)

 レモンは随筆を読むのが大好きなので知っている筆者が多かった。面白いおっちゃんのちょっと下品なつぶやきに、面白いおばちゃんの下世話なぼやき……

(若様がこれを読んでいる……!?)

 あの凍てつく氷の笑顔でこれを読んでいるのか……!?

 見てはいけないものを見たのだろうか、と。レモンは先輩メイドの所へ行き、その服をつんと引っ張る。

「先輩……若様の書斎……!」

「もう掃除が済んだの? 次は寝室を……」

「若様、随筆お好きなんですかね!?」

 先輩は、首を振った。

「あれは先代、若様のおじい様の本がそのまま残っているのよ」

「……そうですよねー」

 あの顔の心の奥では何かあんなこともこんなことも考えてるのだろうかと、思ったのに。(若様が随筆読んでたら物凄く面白かったのにー!!)

「あら、いけない」

 寝室へ入ろうとした先輩が立ち止まった。

「枕へ入れるポプリを忘れたわ」

「取ってきましょうか?」

「いいわ、取って来る。ちょっとわかりにくい所にしまってあるの。先にお掃除始めてて」

 そう言われて、レモンはひとりで寝室へ入った。この部屋も掃除するほど乱れてはいない様子だ。けれどレモンも埃を集めるのが好きなので部屋の角まで丁寧に箒をかける。

 と。

 レモンはベッドの近くに一冊の本が落ちているのを見つけた。

 しっかりとした本の形をしているが、タイトルが無い。

(プライベートな本……ひょっとして、日記とかそういう……!)

 その本を、手に取ろうかどうか。レモンはしばらく逡巡した。

 若様の秘密がそこにあるのだとしたら……開いてはいけない。レモンも日記をつけているが、それを誰かに見られたくはない。とてもくだらないことを書いているから。

 今日は階段の最後の一段でこけかけた、とか。トイレで大きいのが出た♡ とか。

(でもめちゃくちゃ……興味ある! 若様の日記!!)

 あの顔で一体、日々何を考えているの。

 

 (誰ともお付き合いしている様子はないけれど、誰か想う人はいるの)


 眺めることしかできないが、レモンは若様を見るとき、心臓の鼓動が早まるのを抑えられないのだ。


 今にも先輩メイドが戻ってくるかもしれない……、レモンは、ポケットからメモのできる紙とペンを取り出す。

 そこへ、縦線を数本と横線を十数本。一か所にだけ丸をつける。

「あみだくじ~、あみだくじ~」

 判断を運にまかせるのだ。一本の先頭を選び、線を走らせた結果。〇のある線とは別の空白にたどり着いた。

「…………ですよねー」

 心に決めて、レモンは本に手をのばす。そして。

 開いた。

 見たい気持ちの方が勝っていたので、〇にたどり着いたら開くのをやめようと思ったアミクジだったのである……!


「〇月×日 今日もマスクのメイドがえらく高いところの窓をふいていた。あのメイドは何者なのだろう。いつもマスクをしているから顔がわからない。あのマスクの下が美少女だったらウケる。美少女でなかったら面白いから舐めまわしたい」


 読まなければよかった。と、レモンは本をそっと閉じ、テーブルの上に置いた。


レモンは美少女だと思います? フツメンだと思います?

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― 新着の感想 ―
[良い点] メイド歴5年のレモンさん、良いキャラしてますね。 彼女の日記の内容の例が個性的過ぎて、つい、クスッと笑いたくなってしまいました。 面白かったです。
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