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風の歌  作者: 木と蜜柑
3/8

見知らぬ土地で


 花憐は今、自分の置かれている状況が全く理解できないまま、ふらふらと街の中をさまよっていた。


 街中は、美しい石造りの建物がずらりと並び、古めかしい中世の服装に似た衣服を身に纏った街人たちが、まるで奇妙なものでも見るかのように花憐を指さし、振り返った。


 街の真ん中で井戸端会議をしていたおばさんたちは、花憐を目にし、ヒソヒソと何やら話している。


 そんな目を向けられても、今の花憐は何も感じはしなかった。

 

 今はとにかく混乱していた。


「ちょっと待ってよ、わたし、確か高校に行く途中だったよね? 成美と話したのもついさっきのことだよね?」


 自分に問いかけるように、ぶつぶつと独り言を呟く。


「じゃあ、ここは一体どこなのよ?! ってか、なんでこんなとこいるのよ、わたし!!」


 見たところ、日本人らしき人物は一人として見当たらない。


「高校までの途中に、映画のセットが一夜にしてできたとか?!

 …んな訳ないよね。だって、この規模だもん。こんな本物みたいなでかい街、一夜でできる訳ないし。じゃあ、一体ここは何なのよ?!」



 気が付くと、周囲の人たちが花憐を遠巻きにして見ているではないか。


 さっきまでの街の賑やかさはどこへやら。静まり返った周囲に違和感をもった花憐がふと顔を上げた。



「#######、#########!!」


 数メートル先に、立派な栗毛色の馬に股がった強面の男が、よく通る声で何やら叫んだ。


 男の後ろには、2頭の馬と、それに股がった男たちが控えていて、鋭い目付きで花憐を睨んでいる。


「えっ、なに…? もしかしてわたしに何か言ってる?」


 きょろきょろと周囲を見渡すと、いつのまにか湧いてでた野次馬や街人が、訝しげに花憐の方を見つめている。


「##!! ######!」


 馬の上の男は、またもや何か叫ぶと、馬から飛び降り、腰に携えた立派な剣を素早く抜いて花憐に向けた。


 それを見て、初めて花憐は馬に乗っていた男たちが、兵士だと気付いたのだった。


「えっ、まさかそれ、本物じゃないよね? ってか、何語? 全然理解できないんだけど」


 すごい剣幕の男に、花憐はまだ信じられない思いで、にへらと笑って見せた。


 すると、それが勘に触ったのか、男の剣が勢いよく振り下ろされる。


 振り下ろされたそれは、花憐の髪をかすめ、制服のスカートの裾を僅かに切り落とした。


 地面に散った黒い髪の束と、スカートの裾の一部。


「ひっ!」


 本物と分かった途端、花憐はその場に尻餅をついた。すっかり腰が抜けてしまったのだ。


「###、#######」


 男が後ろに控えていた部下たちに何やら命令すると、後ろの男たちは、素早く花憐のもとに駆け寄り、縄できつく縛り上げてしまった。


 



 放心状態の花憐は、なすがまま、馬に乗せられどこまできただろうか。


(なんなの、この人たち! どこに連れてく気なの?!)


 不安な気持ちを隠せないまま、花憐は不安げに通りすぎてゆく街の風景を横目に口をつぐんでいた。


 やがて、大きな川のような掘りと跳ね橋が見えてくる。


 その向こうに見えるのは、巨大な城門だった。


 そう、そこは頑丈で高くそびえる石城壁に囲まれた、城だ。


 まさに、中世ヨーロッパの映画に出てきそうな、仰々しい程の立派で広大な城。


(どうなってんの、誰か教えて、一体、ここはどこなの?!)




 馬を降り、花憐は男たちに縄を引かれながら 城の中へと引き入れられていく。


 とても人が造ったとは想像できないほど、この巨大建造物は美しい造りだった。


 切り出した大きな石が一寸違わず組合わさり、とても繊細に重厚にできていた。


 こんな状況でなければ、あちこちゆっくりと見回って、城の中を見学して歩きたい程のものだった。



 花憐は、自分はもしかして中世ヨーロッパのどこかへとタイムスリップしてきたのではないかと、僅かに疑い始めていた。


 そうでなれけば、この巨大な城が、日本の街中に突然出現するなんで到底あり得ない。


 かといって、そんな信じられないようなことが実際に起こるはずがないと、心のどこかでまだ否定したい気持ちが大部分を占めてもいた。



 そんな中、城の地下へと続く狭い階段を急かされるように歩く花は憐だったが、ここにきてようやく自分がどこに向かって歩かされているのか、やっと気付いた。


 湿っぽく薄暗い地下の錆びた木製の扉が重々しく音をたてて開くと、薄暗がりにいくつも小さな錆びた扉が並んでいるのが目に入る。


(牢屋よね、ここ…)


 一番出前の牢の中を指さし、男たちはそこへ入れと促す。


 花憐が何か言おうとする間もなく、押し込まれるように牢の中へと放り込まれてしまうのだった。


「ちょっ、ちょっと待って! わたしが何かした?!」


 花憐が体勢を立て直す暇もなく、乱暴に扉は閉ざされ、外から鍵をかけられる音が響いた。


「…嘘でしょ…。こんなところに閉じ込めて、一体どうするつもりなのよ!」


 当たりどころのない感情を込め、花憐は地団駄を踏んだ。


 そして、しんと静まり返った狭く暗い牢の中で、急に心細くなってきた花憐は、その場に小さくうずくまった。


 体育座りの格好で、ぎゅっと自身を抱き締めながら…。







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