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1歳のお誕生日会

 のりちゃんが1歳になった。毎日多忙を極めている隆と舞も流石にのりちゃんのお誕生日は早く帰ってきた。のりちゃんは食べれないけど小さなバースデーケーキも作った。せっかくの家族水入らずを邪魔するつもりはないから、僕はパソコンに向かい、この1年間撮り貯めたのりちゃんの写真を1枚ずつチェックした。

 最近、のりちゃんが気に入っている遊びは鈴の入ったボールをぽーんと明後日の方向に投げる事だ。

 僕や翔が拾って来て渡すとまたぽーんと明後日の方向に投げる。このエンドレスな遊びをしている時は自分が犬になったような気分になる。

 明日は昼間に『チームわらし』とのりちゃんのお誕生日会をする。この前遊びに来た時はさんざんだった。それぞれバラバラの位置に立って、こっちにおいでとのりちゃんを呼んだら誰の所にハイハイしていくかと、チコちゃんが疑問を口にするものだから、当然僕の元に来ると思って自信満々にその勝負を受けて立った。みんなで一斉にのりちゃんを呼ぶと、一目散にカハクちゃんへ猛スピードでハイハイしていくのりちゃんを呆然と立ち尽くしながら見ていた。勝ち誇ったような笑みを浮かべるカハクちゃんの手のひらには1粒のイチゴが。手段を択ばないカハクちゃんは最近えげつないと思う。そんなエピソードを思い出しつつ1枚1枚写真を見返していくと、自然と笑みがこぼれてくる。僕の『のりちゃん』は、元気にすくすく育っている。あっという間の幸せな1年だった。

 のりちゃんが、この世界に存在してくれてるだけで、僕は幸せだ。もうあんな喪失感は2度と味わいたくはない。お願いだから今度こそ僕の手を取って。


 ◆◇◆


「のりこちゃん、お誕生日おめでとう。」


 籠にどっさり盛ったイチゴをカハクちゃんがのりちゃんの目の前に置く。


「これはオレとチコからの分だぞ。」


 米俵をドスンといなりが床に置いた。


「俺からはこれだ。」


 クラマはお経のような文字が連ねられた札を、のりちゃんの額に張り付けた。その札はかっと光ったと思ったら溶けて消えた。成長を促し、健康を保つ護符なんだって。クラマからしたら、少しでも早くのりちゃんが料理をできるようになって欲しいからだろう。この中で身長が一番小さいクラマ。

 普通、鞍馬天狗はガタイが大きくなるが、クラマは子供サイズ。立派な天狗になる為に少しでも早く大きくなりたいクラマ。その気持ちはよく解る。僕ものりちゃんちに転がり込んでからずっと大きくなってのりちゃんを守れるようになりたいと切実に思っていたから。


 食卓テーブルに並べたスイカは、のりちゃんが握っていた種から採れた物だ。今世の『のりちゃん』にも毎年僕が育てたスイカをプレゼントするんだ。

 僕のお膝に座らせたのりちゃんに種をほじったスイカをひとさじずつ食べさせていると、


「う~。う~。」


 いなりを必死に指さす。


 いなり達にはスイカと氷をクラッシュさせたスイカのフラッペをふるまっている。


「う~。まんま。」


 僕の膝をぺちぺち叩くのりちゃん。


「のりちゃんにはまだ早いからね。のりちゃんのスイカはこっち。」


 スイカを口に入れようとするとプイっとそっぽを向く。ずりずり僕の膝から降りたのりちゃんは、食卓テーブルに手をついてよたよた立ち上がった。スイカのフラッペに手を伸ばして取ろうとするが届かないもどかしさに僕を振り返って


「くぉぅきぃ。まんま。」

「のりちゃんっっ。」


 半泣きになっているのりちゃんを抱きしめた。やった。ついにやったぞ。のりちゃんが初めて僕の名前を呼んだ。


「のりちゃん、ぽんぽんイタイイタイになるから駄目だよ。」

「くぉぅきぃ。まんまぁ。」


 じたばたするのりちゃんを抱っこしながら、ドヤ顔で


「僕の名前を一番に覚えたよ。」

「お前、隆や舞の事パパ、ママってのり子に教えてないだろう。」

「そんなことより、のりこちゃんが初めて立ったことの方が大事。」

「あたしもそう思う。」

「流石!俺の護符。立てるようになったら料理作れるのか?」

「まだもっと大きくならないと無理だよ。」


 僕はのりちゃんのほっぺたにほおずりしながら、抱きしめていたがあまりにも切ない声で泣きだしてしまったので、根負けしてスイカのフラッペを一口のりちゃんに食べさせてあげた。あまりの冷たさにびっくりしているのりちゃんは格別にかわいかった。

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