パラちゃんのお婿さん
拙作をお読みいただき、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。なんとかこちらもズサーできました。
翔と息子の諒がプラスチックの飼育ケースを抱えて遊びに来た。バリキャリの奥さんは相変わらず仕事中毒なようだ。翔とのりちゃんの母親である舞も仕事ばかりで家事や育児などできない人だったから、奥さんが仕事で家庭を顧みないのは翔にとって普通なんだろう。
末っ子なのりちゃんは、諒が可愛くて仕方がないようで、遊びに来るとすぐにお膝に抱っこしてお菓子を食べさせようとする。僕がのりちゃんをお膝に抱っこしたいのに、諒が遊びに来た日は我慢だ。
諒が遊びに来ると聞いて、のりちゃんは朝から張り切って桜餅を作っていた。庭にある桜の木が葉桜になった頃に採取した葉を茹でて塩漬けにしてあったのだ。のりちゃんがボールに道明寺粉、水、砂糖、苺パウダーを加え、よく混ぜて電子レンジにかけている間に僕は桜の葉の塩抜きを手伝った。のりちゃんが僕の奥さんになってからは台所仕事はのりちゃんがメインで僕はアシスタントだ。『僕の奥さん』とてもいい響きだ。道明寺粉の粗熱がとれたら丸めたあんこを包んで葉っぱを巻けば桜餅の完成。帰りにお土産に持たす分も作ったから結構な量が出来た。
「のりちゃんこんにちは。」
「諒君いらっしゃ~い。元気にしてた?」
「うん。元気にしていたよ。今日はねぇパラちゃんのお婿さんを連れてきてあげたんだ。ディプロドクスだよ。」
そう言って諒は飼育ケースをのりちゃんに手渡した。頭の両側お腹にかけて赤いラインが入っているニホントカゲが入っていた。すぐにでもパラちゃんと結婚できるくらいに成長している。
のりちゃんはちょっと困った顔をしてどう言葉を紡ごうか悩んでいた。ここは僕の出番だな。
「諒、パラちゃんとディプロドクス相思相愛じゃないと結婚はできないんだよ。まずはお見合いさせよう。」
「そうなんだぁ。じゃぁパラちゃんとお見合いしよう。」
翔もこれくらいの事は先に諒に諭してから連れて来てくれればいいのに。心の中でため息をつく。
恥ずかしがり屋なパラちゃんは諒の前では人化したことが無いからただのニホントカゲだと思っている。テラリウムになっている水槽にディプロドクスを入れてあげると、パラちゃんは毛足の長い草の間にさっと身を隠してしまった。
「諒君パラちゃんとディプ君が仲良くなるまでしばらく二人っきりにしてあげて桜餅食べよ。お兄ちゃんも食べるよね?」
「のりちゃんの桜餅うちの奥さんも好きだからくやしがるだろうなぁ。」
「大丈夫だよお土産用にコーキと一緒に沢山作ったから。」
「わ~い。のりちゃんの桜餅美味しいからママ喜ぶよ。」
3人がテーブルの方に歩いて行く間に僕は水槽の中にコオロギを入れてやった。食事をしながらお互い打ち解けてくれるといいんだけど。下手にのりちゃんがえさをあげるとディプロドクスまで人化してしまうかもしれないからね。しかし、翔も恐竜好きだったけど、諒も恐竜が好きなんだな流石親子。
洗面所で手を洗ってダイニングへ戻ると、のりちゃん自ずから諒に桜餅を食べさせていた。2人が帰ったら僕もあ~んってしてもらおうと心に誓った。
のりちゃんにあ~んして貰っている諒をジト目で見ていると翔が僕の気を紛らわそうとして次の個展に出す絵の話をふってきた。
「わらしさま今度の会場はどれくらいのキャパにするの?」
翔の方に向き直り
「今回は普通。たしか24平方メートルくらいだったんじゃないかな?」
「じゃぁ、パラちゃんとディプロドクスを描いても展示できそうだね。ちょっと僕写真撮ってくる。」
リビングに戻るとポケットからスマホを取り出していろんなアングルで撮影していた翔が水槽の蓋を開けて小声で
「パラちゃんちょっと水槽から出て来て。」
鮮やかなブルーの尻尾のパラちゃんがチョロチョロと水槽から出てきた。水槽の蓋を占めてパラちゃんを床の上に置いた。
「パラちゃんディプロドクスとは仲良くなれそう?」
諒がパラちゃんに見えないよう背中で隠して翔が心配そうに聞いた。
人化したパラちゃんはおずおずと
「僕と結婚して下さいって言われたけど、私の方が随分年上だしいくら成人していてもちょっと結婚は無理かなって思った。」
「そうかぁ。友達にはなれそう?」
「友達ならいいよ。」
「じゃぁディプロドクスと暫く一緒に住んでやって。」
「うん。」
直ぐに人化をといたパラちゃんを手のひらに乗せてまた水槽へ帰した翔が安堵のため息をついていた。見た目は小さな女の子だけど確かにパラちゃんは結構なお姉さん(おばさんとは言えない)だもんね。しょうがない明日からのりちゃんに餌やりをして貰ってディプロドクスも人化できるようになってもらおう。
その後パラちゃんとディプロドクスをモデルにした翔の絵は個展で直ぐに買い手が付き人気のシリーズとなった。このシリーズはいつの間にか2匹だったテラリウムに青い尻尾の小さな個体が描き加えられるようになっていた。
お付き合いいただきありがとうございました。




