私じゃないのりこちゃん前編
夏休みも後半になり、運動会の準備で学校へ行くことも増えた。応援合戦で使う衣装を手作りするようにと、生地を配られたので、カハクちゃんに作り方を教えてもらう約束をした。
丈の短い浴衣を作るんだけど、応援の準備係に家庭科の教科書に作り方掲載されているからと、簡単そうに言われたけど、あれ見ただけでみんな作れちゃうんだろうか。みんな器用なんだなぁ。それともお母さんに作ってもらうのかなぁ。
インターホンが鳴ったからドアを開けてカハクちゃんを招き入れた。
「カハクちゃんいらっしゃい。今日は宜しくね。」
「のりこちゃん、元気にしてた?ちゃちゃっと作って、おやつにしようね。わらし、サバ持って来たからアレ作って。」
カハクちゃんがコーキに緑色の太くて短いバナナの房を手渡していた。どこに鯖があるんだろう?
「カハクちゃんいらっしゃい。何で今頃サバ?」
「TVでフィリピンの特集やってるの見てたら、のりこちゃんと食べた屋台のトゥロンが無性に食べたくなったの。」
……私、トゥロンなんて聞いた事も見た事もない。
コーキが目を細めて
「懐かしいなぁ。いなりと僕がいくつ食べれるか競争して屋台のトゥロン品切れさせちゃったから、のりちゃんに怒られたんだよね。」
私はコーキの服の裾を引っ張った。
「コーキ私『トゥロン』なんて知らないよ。」
ハッとしたコーキとカハクちゃん。
「のりこちゃんと違う『のりこちゃん』の話だよ。」
「のりちゃん、後で一緒にトゥロン作ろう。簡単だからね。いなり達にも集合かけとくから、カハクちゃんと浴衣作っておいで。」
「うん。カハクちゃんお願いします。」
なんだか釈然としないなぁ。心の中はモヤモヤしているけど、せっかくカハクちゃんが作り方を教えに来てくれているんだから、集中して作らなくっちゃ。ミシンで縫うから裁断しちゃえばすぐできるよ。とカハクちゃんは言ってたけれど、襟を付けるのに結構手間取って、出来上がったら15時を回っていた。
「やっとできた~。カハクちゃんありがとう。」
「のりこちゃん、よく頑張ったね。さぁおやつにしようね。」
「うん。」
「カハクちゃん、のりちゃんお疲れ様。もうすぐいなり達も来るよ。さぁ、のりちゃん一緒にトゥロンろっか。」
「私は、庭の手入れしてくる。」
庭へ出ていくカハクちゃんの背中に私は声をかけた。
「出来たら呼ぶね。」
「楽しみ。」
房からバナナもどきをちぎっているコーキが、
「これは、フィリピンの加熱用のバナナで『サバ』って言うんだよ。」
「私初めて見たよ。」
「日本のスーパーでもたまに見かけるようになってきたけど、どうやって食べるか知らないと不味いバナナだと勘違いしてしまうんだ。のりちゃん皮ごと電子レンジでチンして。」
「何分?」
「4分。」
ちぎった茎の部分がねばねばしてちょっと気色悪い。4分チンしたサバを、鍋つかみでつかんでまな板の上に乗せた。
「熱いから僕が皮を剥くから、のりちゃんはどんどんサバをチンしていってね。」
「は~い。」
アチチっと言いながら、コーキは焼きナスの皮を剥く様にサバの皮を剥いていた。全部チンした私は、春巻きの皮を対角線で2つの三角にカットした。
春巻きの皮に三温糖を振りかけて縦半分にカットされたサバを乗せる。また上から三温糖をかけて封筒包みにした。二人でもせっせと春巻きの皮に巻いて行く。
「後はこれを油で揚げるだけだよ。」
そう言ってコーキは熱した油にザバザバと三温糖を入れた。
「油に砂糖入れて大丈夫なの?」
私はびっくりしてつい聞いてしまった。
「油の中でカラメルになるんだよ。ここをケチると美味しさ半減なんだ。」
「ふ~ん。」
バナナって甘いのに、更にお砂糖足してくどくないのかなぁ?不思議なお菓子だ。パチパチと油の爆ぜる音がしてカラメル独特の甘い香りがキッチンに漂いだした。




