翔が彼女を連れてきた後編
拙作を読んでいただき、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。最近寝不足で不調なのかと思っていたら胃腸風邪で微熱が2週間ほど続いておりました。流行っているそうです。読者の皆さんも十分ご自愛ください。
「いただきます。」
カップを持ってふぅふぅ冷ましている内藤さんは猫舌なのだろう。それを冷ややかな目で見るのりちゃん、ちょっと感じ悪い。ホント重度のブラコンだ。
「わぁ。念願の渡辺家のスイーツだぁ。」
「……クラッカーにジャムとチーズのっけただけだから。」
ぶすくれたのりちゃんの機嫌は一向に上向かない。
「翔君がね、のり子ちゃんが作るおやつをたまに学校に持ってきてみんなにおすそ分けしてくれてね、あんまり美味しいから、毎回争奪戦なんだよ。」
「のりちゃんは2歳から僕と一緒にスイーツ作ってるからね。」
「のり子ちゃんはそんな小さい時からスイーツ作っていたの?」
「初めては、ハロウィンのドーナツ作ってくれたんだよね。僕よく覚えてるよ。ウサギの格好して保育園迎えに来てくれたんだよね。」
「私そんな小さい時の事覚えてないよ。」
「ほらこれだよ。」
僕はスマホのアルバムから、のりちゃんのウサギ写真を見せてあげた。
のりちゃんは、照れたのかいきなり立ち上がって冷蔵庫からメープルシロップを持ってきた。
「何か忘れてると思ったら、メープルシロップかけるの忘れてた。内藤さんクリームチーズの上からかけてね。」
「のり子ちゃん、今度私にもスイーツ作り教えてくれないかな?」
「時間が合えばね。」
「私のり子ちゃんみたいなかわいい妹が欲しかったんだ。」
「カハクちゃんや、チコちゃんが居るからお姉さんは間に合ってます。」
バンと机をたたくとのりちゃんは2階の自分の部屋へ走って逃げた。その背中に普段温厚な翔が、声を張り上げる。
「のりちゃん。裕子に対していくら何でも失礼だぞ。」
「内藤さんごめんね。のりちゃん翔を内藤さんに取られたってやきもち焼いてるんだ。」
「いえ、こちらこそ初対面なのに馴れ馴れしくし過ぎましたすいません。」
「僕の車使っていいから、翔は内藤さん家まで送ってあげて。」
◆◇◆
翔が内藤さんを送って行ったのでのりちゃんの部屋のドアをノックした。
「のりちゃん。入っていい?」
頭から布団をかぶったのりちゃんが亀になっていた。ベットに腰かけると、ポンポンとのりちゃんの背なかをたたいて
「のりちゃん出ておいで。ほら。泣き虫赤ちゃん。」
「赤ちゃんじゃないもん。」
目を真っ赤にしたのりちゃんがひょこっと顔を出した。
「僕のお姫様は何そんなに泣いてるのさ。ほら、こっちおいで。」
僕の足の間にのりちゃんを座らせて、のりちゃんの目を片手で覆った。
「だってさ、あの人とお兄ちゃんが結婚したら、私ここ出ていかなくちゃいけないんだよ。コーキとも一緒に暮らせなくなっちゃうんだよ。何であんな知らない人が私の家に住めて私は出ていかなきゃいけないの?」
のりちゃんが僕にもたれかかってわんわん泣いているのに、僕は嬉しくってしょうがない。
「のりちゃん、それは違うよ。」
「だって代々そういうしきたりだってお母さんが言ってたもん。」
「それはね、僕がのりちゃんが生まれてくるのを待っていたからなんだ。だから、のりちゃんが大人になってもここに住みたいなら、ここ居住んでもいいし、よそに住みたいなら、僕も一緒について行くから大丈夫だよ。それに、舞が家庭的じゃないから、翔を育てることを買って出たけど、それまでは家の事なんて住んでる人がやってたんだよ。」
「じゃぁ、コーキと別々に暮らさなくても大丈夫なの?」
「のりちゃんが、着いて来るなって言ってもちゃんと着いて行くから、大人になってからどうするか考えればいいんじゃない?」
泣き止んだのりちゃんにティッシュを渡す。鼻をかんだのりちゃんが
「内藤さんに悪いことしちゃった。」
「翔が帰ってきたら、翔に電話かけてもらったら?」
「うん。お兄ちゃんにも謝る。」
「翔もちゃんとわかってるよ。さ、夕飯の準備手伝って。」
「任せといてっっ。」
僕の『のりちゃん』は、ちゃんと大人になっても一緒に住んでくれるって。後は桃さえ食べてくれたら万々歳なんだけどな。




