翔の受験後編
拙作を読んでいただき、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。デル戦を全巻再読し、遊牧少女を花嫁にのリュザールとアユの絶体絶命にもだもだしているので、気を紛らわそうと井上夢人、貴志祐介を読んでいたら、寝不足で熱を出していました。マテができない自分が恨めしい。
『今日のアスパラベーコン私が作ったよ。勉強頑張ってね。』
ぐでっとした卵のキャラクターがついた付箋に丸っこい文字で書かれたそれが弁当箱の蓋に貼ってあるのを見て頬が緩む。にぃにと僕の背中をいつも追いかけていたのりちゃんは、僕が塾で夜家に居ない事を淋しいと拗ねることなく僕が進みたい道をこうやって応援してくれている。長かった受験勉強もあと少しで終わりだ。
「何?渡辺の弁当彼女の手作りか?」
「違うよ。妹が1品作ってくれたんだよ。」
「へぇ。仲がいいんだな。うちの妹なんてやかましくて生意気で、俺の弁当なんて作ってくれないぞ。」
「うちは、小さいころから台所でお手伝いするのが習慣だったから。僕もよく料理したよ。」
「どれどれ。」
林は、僕に断りもなくひょいっとアスパラベーコンをつまんで口に入れた。
「うまっ。」
「そりゃぁ、のりちゃんの料理は何でも美味しいから。」
「渡辺んち毎日こんなうまい飯が出てくるの?」
「生まれてこの方我が家でまずいご飯なんて食べた事無いよ。」
「受験終わったら渡辺んちで飯食わせてよ。」
ヤバイ。わらしさまの機嫌が悪くなる。小さい頃は我が家に友達を連れてきてもウェルカムだったけど、最近のわらしさまはヤンデレ風味。のりちゃんに近づく異性を完全シャットアウトしている。のりちゃんもいい加減わらしさまの気持ちに気が付けばいいのに我が妹ながら鈍感だ。歯がゆい反面、まだのりちゃんは僕だけの妹でいて欲しい。のりちゃんがブラコンなら、僕は立派なシスコンだ。
「考えとく。」
「なんだよ。考えとくって。渡辺の妹会ってみたい。」
「いたって普通の中学生だよ。」
鞄に付けたパラちゃんが刺繍されてるお守りの表面をそっと撫でる。
「普通の中学生が兄貴にそこまでなつくか?普通反抗期真っ盛りで口もきいてくれないもんだろ?」
「林の妹はそうなんだね。うちは両親が仕事人間であまり家に居なかったから、兄妹の絆は深いかもね。」
「渡辺シスコンか?益々渡辺の妹に会ってみたくなった。写真無いのか?」
「受験が無事終わったらね。」
林との約束はあいまいにして残りの弁当をせっせと食べた。
終わりの見えない勉強と、実技の練習にへこたれそうになる事も何度もあったけど、わらしさまとのりちゃんの手作り弁当と、さりげないメモが僕の背中を後押ししてくれた。
神使になったパラちゃんもたまに人化して「お兄ちゃん頑張って。」とか細い声で応援してくれる。コンビニで買ってきた弁当やパンをかじっている生徒もいる中で僕はとても恵まれているんだ。ここまで頑張ってきたんだから何が何でも志望校に合格したい。
僕は来る日も来る日も過去問に取り組み、実技の練習にも余念がなかった。
泣いても笑っても今日でおしまいな運命の日。ドキドキしながらリビングでパソコンを起動した。
何度も画面を確かめた。間違いじゃないかともう一度受験番号を入力した。
「翔そんなに何度も確認しなくてもちゃんと合格しているよ。のりちゃんにLINEしてあげな。きっと授業も上の空になってるから。翔。合格おめでとう。」
「わらしさま。ありがとう。僕4月から大学生なんだね。」
「入学式のスーツも買いに行かなくちゃね。さぁ今日はごちそうだ。リクエストは?」
「いなり様や、カハクちゃん達も呼んでピザパーティーがいい。」
「了解。」
わらしさまは、自分のスマホを出すと片手でフリック入力していた。
僕もすぐにのりちゃんへLINEする。
今夜は、のりちゃんと久しぶりに一緒に台所へ立とう。そしてああでもないこうでもないとたわいのない話をして沢山のピザを焼こう。
僕の長かった受験生活はこうして今日無事、ピリオドを打てた。
のりちゃんが慌てて帰ってくる姿が目に浮かんだ。




