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のりちゃんに再び出会うまでの僕

拙作を読んでいただき、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。次回からはほのぼのするはずです。飯テロ詐欺ですいません。

 のりちゃんのおばぁちゃんの家は代々長子が結婚後に住むことをのりちゃんによって義務付けられていた。壁にはすすけた紙に「わらしさまに小豆ご飯を食べさせてはいけません。」と書かれている。のりちゃん亡き後、わらしさまが見えなくなったり、話を聞いてもらえなかったりした時用だから絶対外さないでね。と息子夫妻に何度も念押ししていた。柱の印とこの張り紙だけがのりちゃんの面影を残していた。

 のりちゃん、僕毎日小豆ご飯が続いてもいいから早く戻ってきて。

 初めてプレゼントしたスイカの種を大事にしまっていたのりちゃん。それが嬉しくてのりちゃんを養えるようになってからも毎年欠かさず僕が育てたスイカを献上していた。お決まりのあのセリフも年を追うごとにのりちゃんはすらすら言ってくれるようになった。あのはにかみながら言うのがかわいかったんだけど、人間って慣れる生き物だった。 

 庭でスイカに水やりをしていると、今日は家の中がごたごたと騒がしい。


「わらしさま、今日からは長男夫妻の(たかし)と、(まい)が住みますので、食べたいご飯があったら遠慮なく言ってくださいね。」

「うん。」


 のりちゃんの家系を途絶えさせない為に大介には入り婿になってもらったから、渡辺 隆・舞夫妻だ。

 のりちゃんの血を受け継いでいるのに、渡辺家の誰のご飯を食べても妖力は上がらなかった。いつのりちゃんが生まれてもいいように渡辺一族をせっせと繁栄させる一方で僕は自分名義の資産を増やしている。のりちゃんが料理を作れるようになった時にその料理をふるまう事を条件にクラマに銀行口座を作ってもらったのだ。名前はのりちゃんが何度も何度も読み返していた本の一番気に入ってるキャラクターからつけた。『渡辺 コーキ』これが僕の人間界の名前。

 僕の準備は万端だから、早くのりちゃん生まれてきて。


 隆夫妻は僕の買った病院で働く医者と看護師だった。二人とも忙しそうで、僕のご飯はお惣菜屋さんや、ケータリングが多かった。のりちゃんが作った以外のご飯なんて誰が作っても同じだから、特に何とも思わなかった。そうこうしているうちに元気な男の子が生まれた。僕に名前を付けてくれというのでのりちゃんが大好きだった漫画のキャラクターから一文字とって『(しょう)』と名付けた。舞はお世辞にも家庭向きとはいえなかった。1歳になると、舞は保育園に翔を預けて職場復帰すると言う。

 僕は久しぶりに大人ぐらいの大きさになって、翔は僕が育てると名乗りを上げた。のりちゃんの子供を3人も育て上げた僕にとって翔一人を育てるのは造作もないことだ。

 男の子にしてはおとなしい翔は、母親の舞が出かける時も後追い泣きすらしなかった。よちよちと歩く翔とのりちゃんの庭をよく散歩した。のりちゃん仕込みの僕の手料理を食べてすくすく育つ翔は、好き嫌いの無い良い子に育っていた。翔にかまっている時間は、のりちゃんのいない寂しさがちょっとだけまぎれた。ほんのちょっとだけね。


「わー。わー。」


 と僕を呼びながら後をついてくる翔がかわいく思えた。そんな翔が保育園の入園準備をするようになった頃僕は、はっきりとのりちゃんの存在を感じ取った。

 舞にすぐに病院で検査をするように言い、『チームわらし』のグループLINEにのりちゃんが生まれてくる事を伝えた。


「わらしさま、どうしたの?」

「もうすぐ翔はお兄ちゃんになるんだよ。」

「お兄ちゃん?」

「そう。もうすぐかわいい妹が生まれるんだよ。」


 翔にはお兄ちゃんの心得をしっかり教え込んだ。おとなしい子だからのりちゃんに暴力を働くことはないだろうけど、用心に越したことはない。

 日々舞のお腹が膨れていくのを今か今かと待ちわびた。舞が産気づいた時も翔を抱きかかえたまま「僕が一番にのりちゃんを抱っこするんだからね。」と口を酸っぱくして言った。2人目だからか陣痛が始まってから1時間もたたずにのりちゃんは生まれた。

 おぎゃぁおぎゃぁと泣くのりちゃんを抱きしめた。その握りしめた手のひらにはスイカの種が握られていた。ハラハラと涙がこぼれた。おかしいな、悲しくなくても涙って出るんだ。のりちゃんの魂はちゃんと僕との約束を守ってくれた。

 これからも毎年僕が育てたスイカを献上するから楽しみにしててね。

 さぁのりちゃん、たくさんの約束とたくさんの思い出を僕と一緒に作ろう。

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